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April 09, 2007

米国特許の非自明性(103条)判断基準

米国特許の非自明性(103条)判断基準

 米国特許における最近の話題の一つに非自明性の判断基準の見直しがある。 非自明性は、特許出願、特許権侵害、特許ライセンスなどの各場面において判断される重要な因子である。この話題は、KSR事件において、KSR社がCAFCの非自明性の判断(教示(teaching)-示唆(suggestion)-動機(motivation)テスト)に対して、連邦最高裁に提出した上訴が受理され、最高裁が新しい非自明性の判断基準を示すのではないかとみられているからである。最高裁の上訴判決は2007年の早い時期に出されるであろうと言われている。

 そこで、本論では、KSR事件上訴の概要を示し、上訴後にCAFCが上訴に反論するかのように、非自明性を争点とする判決を連続して出しているので、それらを紹介し、非自明性の今後について、考察してみたい。

I. KSR事件

(1)TELEFLEX, Inc. v. KSR Int. Co.

(背景)Teleflex, Incorporated(T社)は、自動車に用いられるペダル位置可変(adjustable pedal)部品に関するUSP6237565を所有している。T社は、KSR(K)に対し565特許の侵害で地裁に提訴した。K社は565特許のクレーム4が当業者に自明な発明であり、103条によって特許無効と主張した。

 争点となったクレーム4は次のとおりである。

4. A vehicle control pedal apparatus (12) comprising:

 a support (18) adapted to be mounted to a vehicle structure (20);

 an adjustable pedal assembly (22) having a pedal arm (14) moveable in force and aft directions with respect to said support (18);

 a pivot (24) for pivotally supporting said adjustable pedal assembly (22) with respect to said support (18) and defining a pivot axis (26); and

 an electronic control (28) attached to said support (18) for controlling a vehicle system;

 said apparatus (12) characterized by said electronic control (28) being responsive to said pivot (24) for providing a signal (32) that corresponds to pedal arm position as said pedal arm (14) pivots about said pivot axis (26) between rest and applied positions wherein the position of said pivot (24) remains constant while said pedal arm (14) moves in fore and aft directions with respect to said pivot (24).

 すなわち、クレーム4の自動車用ペダル制御装置は、ペダル位置を適切に調整し固定する機構を持ったアクセルペダルに電子制御部(アクセルペダルの通常位置と踏み込み位置との相対位置に関する電気信号を生成する。)を設けたものである。

 まず、地裁は、565特許のクレーム4と先行技術とを比較し、先行技術USP5010782(Asano特許)にクレーム4の構成要件(電子制御装置を除く)が開示されており、一方、電子制御装置はUSP5819593Rixon特許)に開示されており、市販されてもいたと事実認定した。

 地裁は、565特許と先行技術における課題及び効果(低コスト化、シンプル化、コンパクト化)の同一性を根拠にteaching-suggestion-motivationが存在し、565特許のクレーム4は自明であるとして無効の判断をした。 T社は控訴した。

(CAFC)解決すべき課題、先行技術中の開示、または当業者の知識に基づき、クレームされたとおりに、Asano特許を電子制御装置に組み合わせるための示唆または動機が存在しているかどうかに関し特別な判断が要求される。また、電子制御装置をAsano特許のサポートブラケットへ取り付けるための示唆または動機に関して特別な判断が要求される。クレーム4の全ての構成要件は複数の先行技術文献に開示されている。しかし、565特許は先行技術とは異なる課題(コンスタントレシオ問題の解決)を示している。これら先行技術文献に、クレームされたとおりに発明を組み合わせるための教示(teaching)-示唆(suggestion)-動機(motivation)が存在することを明白で説得性のある証拠として示していないとした。従って自明であるとした地裁判断は誤りであるとして地裁に差し戻した。K社はCAFCの進歩性についての判断に不服を唱え裁量上訴した。

Ⅱ. 裁量上訴

(1) 裁量上訴状

KSR INTERNATIONAL CO., v. TELEFLEX INC. and TECHNOLOGY HOLDING CO.,

 103条は1952年に規定された。

 1966年にGraham v.John Deere Co., 383 U.S. 1 (1966)事件において103条の解釈が行われ、非自明な発明は特許しないという議会の考えを示した。

 Anderson's-Black Rock 396 U.S. 57, 60-61 (1969)事件及びSakraidav. Ag Pro, Inc., 425

U.S.

274, 281-82 (1976)事件において、最高裁は、a claimed “invention” consists of “a combination which only unites old elements with no change in their respective functions.”個々の機能が変わらないで公知構成を一緒にしただけのものは103条により特許しないと判示した。この考え方で103条は運用されてきた。

 その後、CAFCは、“teaching-suggestion-motivation test”103条の判断基準とした。すなわち、当業者が先行技術を組み合わせることについて、先行技術に「教示、提案、動機付け」が無い場合は自明とすることができないとしてきた。1985年以来100有余の事件に“teaching-suggestion-motivation test”適用してきた。

 最高裁の103条の解釈と連邦裁の103条の解釈との相違点は明確である。

 最高裁は、もし、クレーム中の組み合わせられた各構成が知られた又は設計された動作以上の動作をしない場合は、既存構成の組み合わせは発明を構成せず、特許要件を満たさないとの解釈である。CAFCの、“teaching-suggestion-motivation test”103条に規定されたものではなく、最高裁が示したものでもない。 裁量上訴を受理すべきである。

(2) 専門家(支持)意見書

 裁量上訴を受理すべきである。

 Graham事件における非自明性判断は、フレキシビリティがあった。該事件では、非自明性に関しては、(1)先行技術の範囲及び内容、(2)争点となっているクレームと先行技術との差異、(3)当分野での技術水準、(4)二次的考慮(商業的成功など)の4つの点を特定して判断すること(Flexible Standard)を判示している。

 Hotchkiss事件では、業界で知られる通常の機構、仕組みのレベルを超える、技能及び工夫のレベルが具体化されていなければ特許のための質を有していないとすべきと判示している。

 これに対して、CAFCは“teaching-suggestion-motivation test”を適用しており、その適用は剛直的である(Rigid Standard)

 動機付け基準による場合、審査官の負担が大きい。特許権の質・レベルが低くなる。技術革新の阻害になるという意見。

(3) 裁量上訴受理

 2006126日、ヒアリング。当事者双方がそれぞれ主張。

Ⅲ. 上訴後のCAFC判決

(1)Ormco Corp. v. Align Technology, Inc. 05-1426 CAFC [August 30, 2006]

SCHALL, GAJARSA, and DYK(判決:DYK

(背景)

 AlignA社)はOrmcoO社)のRW&B装置が歯列矯正装置に関する特許6,554,611CLAIMs1-37及び特許6,398,548CLAIMs1017を権利侵害しているとして地裁に提訴した。

 O社は103条による特許無効を主張したが、地裁は、特許発明は先行技術TruaxRainsに基づいても非自明であり特許は無効ではない。O社はA社特許を侵害していると評決し、差止めを認めた。O社は控訴した。

 611特許のCLAIM1は次のとおりである。

 1. A system for repositioning teeth from an initial tooth arrangement to a final tooth arrangement, said system comprising a plurality of dental incremental position adjustment appliances including:

 a first appliance having a geometry selected to reposition the teeth from the initial tooth arrangement to a first intermediate arrangement;

 one or more intermediate appliances having geometries selected to progressively reposition the teeth from the first intermediate arrangement to successive intermediate arrangements;

 a final appliance having a geometry selected to progressively reposition the teeth from the last intermediate arrangement to the final tooth arrangement; and

 instructions which set forth that the patient is to wear the individual appliances in a predetermined order which will progressively move the patient's teeth toward the final arrangement, a package, said package containing said first appliance, said one more [sic] intermediate appliances and said final appliance,

 wherein the appliances are provided in a single package to the patient.

 すなわち、CLAIM1は順次歯を再配置するために選ばれる幾何学様式の3以上の保持器具と、それらの使用説明書と、患者に器具等を一まとめのパッケージで供給することを要件にしている。

(CAFC)

 102(a)の先行技術:“the invention was known or used by others in this country, or patented or described in a printed publication in this or a foreign country, before the invention thereof by the applicant for patent.”ここで、公衆がアクセスできない技術は先行技術とはみなさない。

 O社はTruax博士が行っている歯列矯正治療術に関する情報(証言)と、FDA規制書とを先行技術として提示した。A社はTruax博士の治療術は公衆のアクセス可能性がないから先行技術にならないと反論した。

 該博士がセミナー等で該治療術を紹介していたなどの事実から、CAFCはTruax博士の治療行為(Truax博士の証言内容)とFDA規制書とをアクセス可能な先行技術とするに十分である判断した。

611特許:幾何学様式の解釈)

 Truax博士の歯列矯正治療術では、歯に被せる複数の透明なポリマー製器具を使う。該器具はそれぞれ異なる厚さを持っている。そして、薄い器具を装着して歯に弱い力を加え、次にそれよりも厚い器具を装着していく。地裁は、穴の位置が変わることを意味するのだとのA社主張を容れて、Truax博士の器具は幾何学様式を満たさないと解釈した。しかし、明細書等に幾何学様式の定義が無いので、通常の意味、辞書的な意味で判断すべきであるとCAFCは判示した。すなわち薄さも幾何学様式に相当するとした。

(パッケージ)

 地裁は「一まとめのパッケージ」を「まとめることができる複数の器具」であれば要件を満たすと解釈した。しかし、クレームは実際に一まとめのパッケージになっていることを要求している。

 103(a)の自明性:先行技術にクレームの要件が記載されていなくとも、先行技術の教示を修正するsuggestion 又は motivationを示すことができるならば、そのクレームは自明であるとしても良いとSIBIA Neurosciences, Inc. v. Cadus Pharm. Corp., 225 F.3d 1349, 1356 (Fed. Cir. 2000)は判示している。しかし、“teaches away”異なる方向への教示はsuggestion 又は motivationにならない。

 A社はTruax博士は複数の器具を一時に患者に与えたことがないから、本特許は非自明であると主張した。しかしパッケージにしたものを販売するなどの当業界の慣用技術に基づき、本クレーム発明は自明であるとCAFCは判断した。またTruax博士が使用法について口頭説明をしている点は本クレーム発明の使用説明書に対応し自明であるとした。よって、CLAIM1-3,7は無効と判断した。

548特許)

 同様の理由により自明であり、CLAIM10は無効。また治療間隔も自明であり、CLAIM17は無効。

(商業的成功の参酌の可否)商業的成功とクレーム発明とが関係付けられていることが必要である。

 以上により、611特許及び548特許は自明であるので無効。よって地裁に差し戻した。

(2)Alza Corp. v. Mylan Laboratories 06-1019 CAFC [Sep. 6, 2006]

GAJARSA, CLEVENGER, and PROST (判決:GAJARSA

(背景)MylanM)が尿失禁の治療薬であるオキシブチニンの一日一回処方についてジェネリック薬のための簡易新薬認証申請を行った。Alza(A社)は特許6124355の侵害でMを訴えた。

 該特許のクレーム2は以下のとおりである。

2. A sustained-release oxybutynin formulation for oral administration to a patient in need of treatment for urge incontinence comprising

 a therapeutic dose of an oxybutynin selected from the group consisting of

  oxybutynin and its pharmaceutically acceptable salt that delivers from 0 to 1 mg in 0 to 4 hours, from 1 mg to 2.5 mg in 0 to 8 hours, from 2.75 to 4.25 mg in 0 to 14 hours, and 3.75mg to 5 mg in 0 to 24 hours for treating urge incontinence in the patient.

 地裁はdeliverを胃腸器官におけるin vivoでの徐放速度であると解釈した。A社は1)ジェネリック薬のオキシブチニンのin vitroでの速度、2)ANDA薬によって血流中にオキシブチニンが蓄積される速度を証拠として示しただけで、Mの処方の徐放速度に関する直接証拠を示せなかった。地裁はA社は特許侵害に当たることを十分に示せなかったので非侵害と判断した。

 また 地裁はUSP5,399,359(ポリマー外被覆でオキシブチニンの溶解を遅らせる); 5,082,688(二重層の浸透圧ポンプ); 5,330,766(水溶解性成分を含有させる)等の溶解を遅らせる技術に関する先行文献に基づき自明であるから特許無効との判決をした。

(CAFC)

自明性に関する先判決例: 自明性の判断では、まず(1)先行技術の範囲内容を調べる(the scope and content of the prior art); (2) 当業者の技術水準を調べる(the level of ordinary skill in the prior art); (3)クレーム発明と先行技術との差異を調べる(the differences between the claimed invention and the prior art); そして (4)非自明性の客観的証拠を調べる(objective evidence of nonobviousness.)In re Dembiczak]

 複数の引用文献を組み合わせる動機付けがあったか否か[In re Gartside]。そのような組み合わせによる効果が道理にかなって予測できるものであるかどうか[Medichem, S.A. v. Rolabo]を判断する。特許権は有効であるとの推定が働くので、無効を申し立てる者はclear and convincing evidenceを示し特許が無効であることを立証する責任がある[McGinley v. Franklin Sports, Inc.]。またhindsightにならないようにすることが重要であるとしている。[In Graham] motivation-suggesting-teaching’は自明性判断においてhindsightにならないように機能する。

 本案について:一般に経口薬は胃腸で溶け、それが血流に吸収され、体内組織に広がり、逆に組織から血流中に戻り、血流中で成分が堆積したり減ったりする。これは薬だけに限った現象ではなく、全ての物質に共通する。薬には胃腸での溶解が早い即効性薬と、胃腸での溶解が抑えられた徐効性薬とがある。典型的医薬品では約8-12時間で結腸に到達する。結腸に到達するまで薬が溶けないようにすることができれば、約8-12時間後に結腸で吸収され、徐効性にすることができる。薬が溶けないようにする手段は、多数の文献で公知である。

 ところが、当業者は結腸でオキシブチニンが吸収されるとは考えていなかったのであるから、クレームされた徐放処方を動機付けるものはないとA社は主張した。

 MAmidon博士を専門家証人とした。A博士は結腸を含む胃腸器官でオキシブチニンが吸収されると証言した。別の文献には結腸で薬等が吸収されると記載されていた。これら証人及び引用文献から動機付けがなされるので、特許は自明との地裁判断を支持した。

(3)DyStar Textilfarben GmbH & Co. Deutschland KG v. C. H. Patrick Co. 06-1088 CAFC [Oct. 3, 2006]

MICHEL, RADER and SCHALL, (判決:MICHEL

(背景)Dystar(D社)が、Patrick社とBann社(併せてP社)を、水素化されたロイコインジゴにより布地を染色する方法に関するUSP5,586,992の特許権の直接侵害、間接侵害で地裁に提訴した。

 インジゴ(藍)は千年余の間、布地の染色に使われてきた物質であるが、水に不溶であるので、それを還元して、水に可溶なロイコインジゴにして使う。ところがロイコインジゴは酸化されやすく不安定である。そこで、様々な安定化法が提案されている。

 992特許のクレーム1は次のとおりである。

A process for dyeing cellulose-containing textile material with indigo which comprises

a) introducing into a dyebath an aqueous solution of leuco indigo solution prepared by catalytic hydrogenation;

b) contacting the textile material with the dyebath; and, after the leuco indigo has gone onto the textile material,

c) converting said leuco indigo back into the pigment form in a conventional manner by air oxidation.

 陪審は、P社の侵害を認定し、損害賠償の支払いを評決した。P社は控訴した。CAFCは、992特許は自明であり103条により無効であると判断した。

(CAFC)

①当業者のレベル

 D社は本技術は染物師の知識、すなわち、高卒レベルで、読み書きができ、機械を操作できる程度の技術水準で判断すべきであると主張した。Blackbum博士が証人として召喚され、本技術には二つの技術水準がある。一つは染物師の技術水準、もう一つは染色プロセス設計者の技術水準である。P社が引用した先行技術は化学分野のものであり、陪審にはそれら証拠が関連証拠としかうつらなかった。それは、化学の知識を持たない染物師の技術水準で判断したからである。 染色プロセスの最適化には、化学、システム工学の知識が必要である。本発明は、染物師ではなく、染色プロセス設計者の基準で判断すべきであるとした。

②先行技術の水準(範囲・内容)

1) in the prior art references themselves;

2) in the knowledge of those of ordinary skill in the art that certain references, or disclosures in those references, are of special interest or importance in the field; or

3) from the nature of the problem to be solved, leading inventors to look to references relating to possible solutions to that problem.

引用文献に表現されているものだけでなく、背景となる技術を考慮し、黙示的にsuggestionがないかどうかを判断する。当業者は技術知識だけでなく、課題解決に向けた想像力や創意のレベルも考慮すべきである。(If, as is usually the case, no prior art reference contains an express suggestion to combine references, then the level of ordinary skill will often predetermine whether an implicit suggestion exists. Persons of varying degrees of skill not only possess varying bases of knowledge, they also possess varying levels of imagination and ingenuity in the relevant field, particularly with respect to problem-solving abilities.

③二次的考慮(例えば、商業的成功、失敗例)

 商業的成功は発明技術そのものに由来するものである必要がある。失敗例も同様、輸送コスト、需要者の要求などに由来する場合は二次的考慮はなされない。

(4)Optivus Technology, Inc. v. Ion Beam Applications S.A. 05-1518, -1534, -1575 CAFC [Nov. 16, 2006]

BRYSON, ARCHER, and LINN(判決:LINN

(背景)Optivus(O社)とLoma(L社)は、プロトンビームによるガン治療装置に関する特許4,870,287及び5,260,581の排他的実施権者及び譲受人(権利者)である。Ion(I社)はO社の競合社である。1999年フロリダ大学(F大)がO社にプロトンビームシステムについて照会する手紙を送った。2000315に照会の期限が切れた。F大は期限切れ後にI社と契約した。20028月O社はI社を特許権侵害で提訴した。I社は特許無効および非侵害で抗弁した。200412月に地裁は特許無効、非侵害の略式判決をした。O社は控訴した。

(CAFC)I社はワシントン大学(W大)の設備(中性子ビームによるガン治療装置)と概念的設計報告書とからプロトンビームによるガン治療装置に関する287特許は自明であると主張した。

 CAFCは、3つの争点:(1) prior art teaching away from the invention(先行技術が発明を成すことを阻害しているか?), (2) motivation to combine references(動機付けがあるか?), and (3) proper application of the law.に焦点を絞った。

 まず、(1)W大の設備はプロトンをベリリウム板に衝突させ中性子を発生させて患者に照射するものである。L社はプロトンビームは殺人光線であるからベリリウム板を外すなどということを当業者は行わないと主張した。しかし、CAFCは、当業者はベリリルム板を単純に取り外さないだろうし、プロトンビームの強度を調節せずにプロトンを直接照射するということもしないだろう。W大の設備において、プロトンによる治療法を阻害するものはないと判示した。

(2)概念的設計報告書に粒子(プロトン、中性子など)によるガン治療に関する開示があり、これをW大の設備に適用する動機付けがあると判示した。

(3)地裁は、上記(1)阻害理由、(2)動機付け、さらに、ヒンドサイトの防止、二次的考慮を行った上で自明であるとの判決をなしており、法の適用が適切であると判示した。

Ⅳ.考察

①以上4つの事件でCAFCは、“teaching-suggestion-motivation test”における先行技術の水準を引き上げて判断すべきという方向を示している。また該testにおいて“teaching away”の適用を推奨している。一方で、“hindsight”によって、高水準発明が保護されないというような弊害が生じないように、バランスすることも主張しているように思う。

②日本の進歩性の判断基準は、平成7年にそれまで使われていた審査基準を廃し、新しい審査基準が適用された。そして平成12年に基準の改正が行われ、現在、その基準が適用されている。審査基準の変遷の概略すると、平成6年以前の基準では、当業者が容易に発明をなし得る場合は進歩性が無いという一般基準と、効果の参酌し、効果に顕著性があれば進歩性があるとの考え方、単なる置換や組み合わせなどのようなものは進歩性が無いとの考え方、それを補足する形で産業分野別の基準が示されていた。

 平成7年から適用された基準では、本願発明と先行文献との差異を認定し、その差異を埋めるに当って「動機付け」があるか否かで判断し、「動機付け」ができない場合は進歩性があるとなった。構成の差異を重視する傾向になった。そのために、パラメータ特許などが多数成立する傾向になった。

 平成12年から適用された基準では、「動機付け」に加えて「阻害理由」という考え方が導入された。これは、2以上の先行技術の構成を組み合わせることによって本願発明の構成を成す場合に、その組み合わせるに当って阻害する理由が無ければ進歩性がないと判断するというものである。また、パラメータ特許については、引用発明にパラメータ等が不記載で対比が困難となる場合において、引用発明の対応する物との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずに、両者が類似の物であり本願発明の進歩性が否定されるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、進歩性が否定される旨の拒絶理由を通知するとなった。

 この平成12年基準の適用との因果関係は明確ではないが、特許査定率が低くなってきており、特許権侵害訴訟では特許無効になる頻度が高くなっている。

 一方、米国では、下図に示すように特許率(USPTO2006年公表)が200654%で過去20年間で最低となっている。日米共に、特許権の取得が統計上は難しくなっている傾向がある。

③高いレベルの発明が成され、それを保護し産業に役立てることが、国家の発展に寄与するという特許制度の主旨を鑑みれば、低レベルの発明を保護することによる弊害は可能な限り抑えるべきである。また、近年、パテントトロールによる特許権の濫用がIT企業を中心に問題視され米国では顕著のようである。また日本の知的創造サイクル専門調査会(平成18217日)でもパテントトロールを「パテントテロリスト」と呼び問題提起している。そして、米国特許の動向を見定めて日本の制度改正を考える旨の発言があった。

 このようなことから、米国特許の非自明性の判断基準は、プロパテントの行き過ぎを是正する方向で、現状よりも厳しいものになるのであろうと予測される。

以上。                                                                                                                                 

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