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June 24, 2007

Hakim v. Cannon Avent Group, PLC 05-1398

-- February 23, 2007判決(MICHEL, NEWMAN and RADER;判決文NEWMAN

(概要)HakimAvent6321931特許及び6357620特許の権利侵害を主張して地裁に提訴した。地裁は931特許は非侵害、620特許は権利無効の略式判決のためのAvent側動議を認めた。Hakimが控訴したが、CAFCは地裁判決を支持した。

(背景)

 931特許は、非液漏れ飲用カップ用装置に関する発明を請求している。

1. An apparatus for use in a no-spill drinking cup, said apparatus comprising:
a valve holder, such valve holder comprising at least one valve and a blocking element, said valve comprising a flexible material, said blocking element comprising an area of material which is impenetrable to the flow of liquid, said valve further comprising an opening through said flexible material, said valve having a resting position wherein said flexible material sits with said opening against said blocking element such that said valve is closed to the passage of liquid through said valve, said valve moving into an open position for the passage of liquid through said valve upon the application of negative air pressure to the top of said valve, said open position being a position wherein said flexible member comprising said opening lifts off of said blocking element.

 吸い口に弁が設けられていて、通常は閉じており、人が吸い口から吸引したとき(陰圧になったとき)に弁が開き内液が通過できるようになっている。明細書には好適な態様としてデュアルシール方式の弁を有するカップが記載されている。吸い口とは別の場所に吸い口に設けた弁とは逆向きの弁が設けられていて、陰圧になったときには、外気をカップ内に吸引するが、通常状態では閉じていて、カップを逆さまにしたり、振り回してもカップ内に空気が入らないので、液が漏れないようになっている。

 審査において、拒絶理由通知で引用された文献(5706973,5890621,5890620)との差異を説明するために、Hakimは次のような主張をして意見書を提出した。

 Thus two separate mechanisms are both used to close off the passage of liquid through the valve when not in use. The first mechanism involves an inverting, flexible valve material which has a slit therein and responds to suction. The second mechanism involves the use of a blocking element, which is impenetrable to the passage of liquid. The slit sits against the blocking element, sealing or blocking off the slit, to yet further prevent the passage of liquid through the valve.

. . . . By providing both the elastomeric member with a slit and a blocking element, a sealing mechanism is provided which reduces spillage beyond that of either mechanism alone. None of the references cited in the Office Action [Robbins III, Bachman, and Belcastro] teach or suggest such a no-spill mechanism having a slit sitting against a blocking element such as is recited in all of the pending claims.

 この主張では柔軟な弁材料にスリットを設けていることを強調している。

 この意見書によって、許可通知が発行された。許可通知後、Hakimは継続出願を行って親出願のクレーム1及び2中の"Slit""Opening"に補正した(現クレーム)。親出願は放棄された。弁護士の意見書においてこの補正はクレーム1および2を拡大するものであると審査官に述べている。審査官はこの拡大されたクレームを拒絶せず、許可通知を出し、特許登録された。

 620特許は、非液漏れ飲用装置に関する発明を請求している。

1. An apparatus for preventing spilling during drinking, said apparatus comprising:

       a valve, said valve comprising a protruding member and a valve member, said valve member comprising an opening, said valve having a closed position and in an open position,

       said closed position being a configuration in which said protruding member extends through said opening of said valve member to block the passage of liquid through said opening,

       said valve further being movable into an open position in which said valve member is pulled away from said protruding member for the passage of liquid through said opening,

       said valve moving from said closed position to said open position upon the application of negative pressure to said valve member.

Hakimの主張)

931特許

 放棄された親出願の審査経過によってクレームの解釈をするのは誤りである。

 継続出願したときに、クレームが拡大されたことを、審査官に知らせている。審査官が新しいクレームで拒絶をしなかったということは、新しい拡大されたクレームに特許性があることを審査官が認めたことになる。新しい拡大されたクレームを限定的に解釈するのは誤りである。

 継続出願するときにクレームの範囲を拡大することは妨げられない。審査手続においてクレームを減縮することと同様に拡大することは認められている。また親出願で許されたクレームよりも広いクレームで継続出願することも認められている。

620特許

 IT特許に開示されている弁は"produces hermetic sealing(気密シール)”である。従ってIT特許は弁が閉位置に来たとき空気を遮断するのである。

 一方本発明で用いられている弁は液体を遮断するのである。IT特許は空気遮断に足りる強度を持つのであるが、本発明は液体遮断に足りる強度を持つのである。従って新規性がある。

Aventの主張)

931特許

 審査経過全体によれば、Hakimは先行文献との差異を明確にするために、発明をスリットの構造に限定している。Hakimは審査官にクレームを拡大したことを知らせているが、親出願で主張したスリットという特定構造へ限定するという意図が、もはや無いことを明確にしていない。

620特許

 IT特許によって新規性を有せず、102条によって無効である。

(CAFCの判断)

931特許

 Hakinは、クレームを拡大することを意図して出願を再提出する(継続出願する)権利を有している。しかしながら、譲り渡してしまったまたは放棄してしまったクレームの範囲を回復させることはできない。

 放棄(disclaimer)は審査中に取り消すことができ、放棄してしまった範囲を復活させることも許されているが、先行文献を回避するために前言された放棄を元に戻しとらえ直す必要があることを審査官に明確に知らせなければならない。

 "Opening""Slit"に限定解釈した地裁の判断に誤りはない。

620特許

 IT特許は吸い口で吸わないときに液が漏れないようにすることを目的とする発明であるから、閉位置において液体を遮断するものであることが明らかであるから、620特許は新規性がなく無効であるとの地裁判断に誤りはない。

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June 15, 2007

用途発明の権利取得上の基準と権利行使上の基準(II)

権利行使においては、製造販売において用途の区別を明確にしていないと侵害となる可能性ある。

権利行使平成2年(ワ)第12094号特許権差止請求事件(東京地裁平成4年10月23日)

【原告特許権の範囲(要旨)】

フマル酸ケトチフェンを有効成分とするアレルギー性喘息の予防剤。

【被告の主張】

 被告製品は、アレルギー性疾患の治療剤である。特許庁は、特許異議決定において、右引例の抗ヒスタミン作用と本件発明のヒスタミン解放抑制作用とは作用機構が異なるとし、抗ヒスタミン作用を利用した抗ヒスタミン剤の喘息への使用は症状の軽減すなわち治療を目的とするものであるが、ヒスタミン解放抑制作用を利用した場合は予防を意味するものとし、治療剤と予防剤は、その投与時期においても明らかに異なると認定している。

【裁判所の判断】

①被告らは、本件発明は本件化合物のヒスタミン解放抑制作用を利用した用途発明であるから、本件発明の特許請求の範囲にいう「予防剤」とは、「ヒスタミン解放抑制作用に基づくアレルギー性喘息の予防剤」と解すべきである旨主張する。本件発明は、既に公知の物質である本件化合物についてヒスタミン解放抑制作用という新しい性質を発見し、これを利用して未知の用途であるアレルギー性喘息を考え出した、いわゆる用途発明であるところ、用途発明にあっては、既知の物質と未知の用途との結びつきのみが発明を構成するものであって、既知の物質について発見した新しい性質は単にこの結びつきを考え出すに至ったきっかけにすぎず、この新しい性質そのものは発明を構成するものではない。

 出願人の審査中の「本件化合物の気管支喘息抑制効果はヒスタミン解放抑制作用に基づくものである」旨の主張は、従来から知られていたアレルギー性疾患の治療剤と未だ知られていないアレルギー性喘息の予防剤、という用途の相違を、前者における抗ヒスタミン作用と、後者におけるヒスタミン解放抑制作用という薬理作用から明らかにしようとしたにすぎないものであって、このことをもって技術的範囲を限定解釈するための根拠とすることはできない。

②(1)フマル酸ケトチフェンが抗アレルギー薬に属するところ、抗アレルギー薬は、一般的には、既に起こっている気管支平滑筋攣縮に対して直接的な気管支拡張作用を有しておらず、そのために、多くの場合、急性発作には効果は乏しく、効果が生ずるまでには時間も要することもあるため、気管支喘息に対してはあくまで予防薬として位置づけられていること、・・・(5)そして、ザジテン、サジフェンカプセル及びザトチテンカプセルの添付文書には、いずれも、「本剤使用にあたって」の欄において、「気管支喘息に用いる場合、本剤はすでに起こっている発作を速やかに軽減する薬剤ではないので、このことを患者に十分説明しておく必要がある。」、「本剤を季節性の患者に投与する場合は、好発季節を考えて、その直前から投与を開始し、好発季節終了時まで続けることが望ましい。」との記載があること、(6)ザジテンは、その添付文書には、アレルギー性疾患治療剤と記載されてはいるものの、医療機関においては、抗アレルギー薬として認識されており、気管支喘息の発作を予防する目的で、日常臨床において広く使用されていること、・・・

 右認定した事実によれば、被告らの製剤品は、アレルギー性気管支喘息の急性発作を引き起こしている患者に対して投与する薬剤であるというよりは、喘息と診断された患者が発作を起こさないように、予め、かつ定期的継続的に投与する薬剤であり、アレルギー性気管支喘息の発作が起こることを予防する薬剤であると認められるから、本件特許請求の範囲にいう「アレルギー性喘息の予防剤」に該当するというべきである。

③本件発明がいわゆる用途発明であり、アレルギー性喘息の予防剤という用途についてのみ技術的範囲が及ぶものであるにもかかわらず、原告が本訴において差止めの対象物とした「フマル酸ケトチフェン」については、その用途を何ら限定していないから、アレルギー性喘息の予防剤という本件発明の技術的範囲を超えた用途(他用途)についてまで差止めを求める結果となり、不当であるとの点にあるものと思われる。

 そこで、この点について、検討することとする。

・・・、このフマル酸ケトチフェンについて、その抗ヒスタミン作用を利用する等した、アレルギー性喘息の予防剤以外の用途も考えられないわけではなく・・・

 このようなアレルギー性喘息の予防剤以外の用途については本件発明の技術的範囲が及ばないことはいうまでもない。そして、前記のような認定事実をも併せて考えると、原告が差止めを求めた対象物のうち、本件発明の技術的範囲に属するのは、別紙第二物件目録記載の医薬品に限定されるというべきである。

④、被告らの製剤品について、アレルギー性喘息の予防剤以外の用途をも差し止めることとなり、不当であるとの点にあるとも解されるので、この点も検討することとする。

・・・

 本件化合物については、これを製剤販売する業者としては、アレルギー性喘息の予防剤としての用途と他用途とを用途としての適用範囲において実質的に区別することが可能なのであって、右区別をすることによって当該製剤が本件発明の技術的範囲に属していないことを明らかにすることができるのであり、他方、右用途の区別が明確になされていない場合には、本件化合物はアレルギー性喘息の予防剤としての用途と他用途とがいわば不可分一体になっているものというほかはなく、したがって、アレルギー性喘息の予防剤としての用途と他用途とを区別する方途がないのであるから、当該製剤販売業者としては、本件化合物のアレルギー性喘息の予防剤としての用途のみならず、他用途にまで本件発明の技術的範囲が及ぶことも甘受せざるを得ないものといわなければならない。

・・・被告らは、被告らの製剤品について、アレルギー性喘息の予防剤としての用途を除外する等しておらず右予防剤としての用途と他用途とを明確に区別して製剤販売していないのであるから、被告らが、その製剤品についてアレルギー性喘息の予防剤以外の用途をも差し止められる結果となったとしてもやむを得ないものといわざるをえない。

以上。

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June 14, 2007

用途発明の権利取得上の基準と権利行使上の基準(I)

権利取得においては、用途の相違(作用機序、市場など相違)を主張することが必要。

権利取得:平成18年(行ケ)第10227号審決取消請求事件

(事件概要)

 原告(花王)が特許出願したところ、被告(特許庁)から拒絶査定を受け、これを不服として審判請求をしたが、請求不成立の審決を受けたので、その審決の取消しを求めた。知財高裁は、原告請求を認めて、審決を取り消した。該出願は特許3919250号として登録された。

(審決)

 本願発明(特開平9-255548号公報):

【請求項1】アスナロ又はその抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤。

 引用文献(特開平5-345719号公報):

【請求項1】有効成分として、ヒノキ科植物(Cupressaceae)の成分であって、中間極性を有する有機溶媒、一価若しくは多価の低級アルコール、又はこれらの混合物に可溶性を示すものを含有することを特徴とする美白化粧料組成物。

【一致点】

「アスナロ抽出物を有効成分とする皮膚外用組成物」である点。

【相違点】

本願発明は当該組成物が「シワ形成抑制剤」であるのに対し,

      引用発明は「美白化粧料組成物」である点。

【審決理由】

①引用文献の組成物を皮膚に適用した場合,同じ有効成分を同程度含有する以上,美白と同時にシワ形成抑制作用も奏しているはずのものであって,上記の相違点は,組成物中の有効成分であるアスナロ抽出物の作用を美白作用と認識して美白化粧料組成物としたか,シワ形成抑制作用と認識してシワ形成抑制剤としたかの表現上の相違にすぎない。換言すれば,本願発明は,引用文献のアスナロの抽出物を含有する美白化粧料組成物について,シワ形成抑制の効果を新たに発見したにすぎないものであり,それにより格別新たな用途が生み出されたものではない。

②皮膚の黒化や色素沈着はシワ形成と同様,美容を損なう典型的な現象であり,これらの現象を予防することは日焼けやシワが既にあるとないとにかかわらず,美容効果,即ち皮膚を美しく健康に保つために志向されるものである。そして,引用文献の組成物も本願発明のシワ形成抑制剤もいずれも美容効果を期待する使用者に対して用いられ,同じ効果が奏される以上,新たな用途の外用剤が創出されたとすることはできない

 よって、本願発明は新規性を有しない(特許法第29条第1項)。

(原告主張)

①取消事由1(省略)

②取消事由2

(ア)

a.シワと色素異常の違い

 「シワ」とは,後天的に生じた皮膚のゆがみ,表皮から真皮にかけての皮膚の変形である。 一方、「皮膚の黒化やシミ,ソバカス等の色素異常」は,表皮内における色素(メラニン)の異常増加,沈着によって生じる。 以上のとおり,シワと皮膚の黒化やシミ,ソバカス等の色素異常は全く異なる現象である。

b.シワ形成抑制剤と美白化粧料組成物の作用機序の違い

 上記のシワ形成の原因と機構から,「シワ形成抑制剤」としては,表皮の乾燥防止や真皮を構成する繊維を復元する作用を有するもの,活性酸素を消去しうる抗酸化剤等が用いられている。 一方、皮膚におけるメラニン生成と代謝機構から,「美白用薬剤」としては,メラノサイト内でのメラニン生成抑制,産生されたメラニンの還元,表皮内メラニンの排泄促進,メラノサイトに対する選択的阻害活性を有するものが用いられている。

 以上のとおり,「シワ形成抑制剤」と「美白化粧用組成物」とでは,作用部位や作用機序が全く異なり,その有効成分である薬剤も,化学的構造的に全く異なる化合物等である。

c.販売・購入実態における相違

 「化粧品マーケティング要覧2004 No.1」では,化粧品を機能別に,保湿訴求,ホワイトニング(主に美白効果を訴求),アンチエイジング(主にシワ・タルミなど老化防止を訴求)等に分類してマーケット動向を分析している。

 各化粧品メーカーは,ホワイトニング(美白)とアンチエイジング(抗シワ)を別個の製品としてラインアップし,有効成分の作用機序や機能・効果を強くアピールしている。市場では,ホワイトニング(美白),アンチエイジング(抗シワ),保湿といった,特定の機能・効果を訴求した商品がそれぞれ明確に区別して販売され,需要者はその特定の機能・効果を求めて商品を購入している。商品は所望の機能・効果を奏するための有効成分を含み,その旨の表示(ラベル)を付して販売される。そして,販売者及び需要者はその表示にしたがって目的の商品を選択し,仕入れ,販売し,購入する。

(イ)

 アスナロの抽出物を有効成分とする公知の皮膚外用組成物のシワ形成抑制剤としての使用は,新たに発見された技術的効果に基づくものであり,機能的な技術的特徴である。そして,この技術的特徴は,引用文献に記載されたものではないから,引用文献のアスナロの抽出物を含有する美白化粧料組成物を実施するに際し,潜在的に発生していたとしても,本願発明のアスナロの抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤は新規である

 また,上記(ア)のとおり,シワ形成抑制剤と美白化粧料組成物は,その適用対象,標的及び作用効果を全く異にするものである。上記(ア)のとおり,商品はその効果や機能を示すラベルを付して販売され,消費者はその特定の効果や機能を期待し,シワ形成抑制と美白化粧料組成物を明確に区別して購入している。したがって,アスナロ抽出物のシワ形成抑制効果は,本願出願前には認識されたことがなく,本願発明者によって初めてこのシワ形成効果が見い出された結果,「アスナロ又はその抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤」が生み出されたのである。本願発明がなければ,アスナロ抽出物は,シワ形成抑制剤として使用されることはなかった。この意味で,本願発明は,アスナロの抽出物について,シワ形成抑制の効果を新たに発見し,それにより新たな用途を生み出したものであり,シワ形成抑制剤と美白化粧料組成物を単なる表現上の相違とする審決の上記判断には誤りがある。

(ウ)

 上記(ア)のとおり,皮膚の黒化や色素沈着等とシワ形成は,その発生部位,原因,機構において全く異なる現象であって,美容を損なう現象として同視できるものではない。また,シワ形成抑制剤は,顔面のシワの発生や進行の抑制を期待する人に対して用いられ,美白化粧料組成物は,日焼けによるシミ,ソバカス等の改善・予防を期待する人に対して用いられるから,両者は同じ効果を期待する使用者に対して用いられるものではない。

(被告主張)

①取消事由1(省略)

②取消事由2

(ア) 本願発明の「シワ形成抑制剤」が,化粧料を含む「皮膚外用組成物」の一種であること,いわば「シワ形成抑制作用を有する皮膚外用組成物」であるといえる。仮に,「シワ形成抑制剤」中の「シワ形成抑制」との表現がいわゆる用途の表示であったとしても,本願発明の「シワ形成抑制」は,「シワ形成抑制用の皮膚外用組成物」である。

 本願発明の「シワ形成抑制剤」中のアスナロ抽出物等の有効成分の含有量と,引用発明の「美白化粧料組成物」中の有効成分の含有量とは異なるものではなく,また,両者の取り得る形態も異ならない。

 引用発明の「美白化粧料組成物」を皮膚に適用すれば,「美白作用」と同時に「シワ形成抑制作用」も奏しているはずのものである。そして,「シワ形成抑制作用」のような作用は,視覚や触覚のような五感で容易に知得できる作用であるから,「美白化粧料組成物」を皮膚に適用・使用した場合に,その使用者が容易にその効果を実感できるものである。したがって,そのような効果を単に認識し,それをうたった「皮膚外用組成物」と,公知の「美白化粧料組成物」とは,物として明確に区別することができないし,「皮膚外用組成物」について,格別新たな用途が生み出されたとすることもできない。

(イ)

 例えば,「乳酸」や「アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム」のように,単一の成分であって,美白作用とシワ形成抑制作用とを併せ有しているものが存在している。美白効果を有する成分とシワ形成抑制効果を有する成分とを配合して,美白効果とシワ形成抑制効果とを併せ有する化粧料も販売されている。このことは,少なくとも,供給者が美白作用とシワ形成抑制作用との両方を有する商品を市場に供給すべきと判断したことにほかならず、「需要者や当業者が美白作用を有する組成物について同時にシワ形成抑制作用を有すると期待することは当該分野の常識上ありえない。」との原告の主張は失当である。

(ウ)

 本願明細書には,「発明の効果」として,「本発明のシワ形成抑制剤は,紫外線の照射によるシワ形成の抑制作用に優れ,皮膚老化予防,特にシワ予防用の外用剤として有用である。」との記載があり,本願発明のシワ形成抑制剤は,皮膚の老化の一種である,紫外線により形成されるシワの予防に特に有用なものである。一方,引用文献には,シワについての言及はないものの,「紫外線による皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着を消失し,又は予防するための美白化粧料組成物に関する。」との記載があり,そこに記載の美白化粧料組成物は,紫外線によるトラブルの予防のために使用されるものである。

 引用発明の「美白化粧料組成物」と本願発明の「シワ形成抑制剤」は,いずれも,美容効果のうち,特に紫外線による皮膚のトラブルに対する予防効果を期待して皮膚に適用されるものであって,「同じ効果を期待する使用者に対して用いられるものではない。」とする原告の主張は,失当である。

(裁判所の判断)

①取消事由1(省略)

②取消事由2

 本願発明は,アスナロ又はその抽出物が優れたシワ形成抑制作用を有することを見い出したことによってなされた発明であって,「シワ形成抑制」という用途を限定した発明(用途発明)であると認められる。

 本願発明の「シワ形成抑制」という用途が,その技術分野の出願時の技術常識を考慮し,新たな用途を提供したといえるのでなければ,発明の新規性は否定されるので,以下,本願発明の「シワ形成抑制」という用途が,新たな用途を提供したといえるかどうかという観点から判断する。

(1)

 引用文献には,皮膚に適用することにより,色素細胞を白色化して,紫外線による皮膚の黒化若しくは色素沈着を消失させ又は予防する美白化粧料組成物で,有効成分としてアスナロの枝葉のメタノール抽出エキスを含有するものが記載されていると認められる。

(2)

「シワ」と「皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着」では,

() 「シワ」が,皮膚の張り,弾力性が喪失して皮膚に線状や襞状の溝が形成される現象であるのに対し,「皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着」が,皮膚にメラミン色素が沈着して褐色~黒色に変化する現象であって,現象として異なること,

() 「シワ」と「皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着」は,いずれも紫外線暴露が原因の一つとなって起こるが,その機序は,「シワ」が,正常な弾性繊維とそれによる網状構造が変性し,異常な弾性組織が蓄積することによって起こるのに対し,「皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着」は,メラニン色素の沈着によって起こるものであって,機序が異なること,

() 予防・治療法としては,紫外線の皮膚への吸収を防ぐもののように共通しているものがあるが,それ以外に多くの異なる予防・治療法があること,が認められる。

(3)

 「'96化粧品マーケティング要覧No.1」の記載から、美白効果を主に訴求する化粧料,とシワ,タルミなど老化防止を主に訴求する化粧料とは,異なる種類の製品であると認識されていたことが推認される。

 引用発明の「美白化粧料組成物」を皮膚に適用すれば,「美白作用」と同時に「シワ形成抑制作用」を奏しているとしても,本願の出願までにその旨を記載した文献が認められないことからすると,「シワ形成抑制作用」を奏していることが知られていたと認めることはできない。

 「シワ」は,現象もそれが生ずる機序も,「皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着」とは異なり,美白効果を主に訴求する化粧料,とシワ,タルミなど老化防止を主に訴求する化粧料は,製品としても異なるものと認識されていたところ当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,本願出願当時,引用発明につき,「シワ」についても効果があると認識する余地はなかったものと認められる。

 美白としわ抑制の効果を併せ持っている化粧料はアスナロ抽出物とは全く異なる物質であるから、アスナロ抽出物もしわ抑制効果を併せ持っていると認識できたとは認められない。

 美容効果のうち,特に紫外線による皮膚のトラブルに対する予防効果を期待して皮膚に適用されるものであるとの共通点があるからといって,当業者が,本願出願当時,引用発明につき,「シワ」についても効果があると認識することができたとは認められない。

(4)

 これまで述べたところを総合すると,当業者が,本願出願当時,引用発明の「美白化粧料組成物」につき,「シワ」についても効果があると認識することができたとは認められず,本願発明の「シワ形成抑制」という用途は,引用発明の「美白化粧料組成物」とは異なる新たな用途を提供したということができる。

 したがって,取消事由2は理由がある。

以上。

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June 10, 2007

ESPEED, INC., v. BROKERTEC USA, L.L.C. 2006-1385

原告ESPEEDCANTOR等が、被告BROKERTECを米国特許6560580の侵害で地裁に提訴したが、地裁は580特許は審査中の不公正行為により権利行使不能という判決を下した。原告はCAFCに控訴したが、CAFCは地裁の判断を支持した。

(背景)

 Outcry公開セリ売買)においては、事務員が顧客または仲介人の口頭申込を聞き、その情報を電子機器に入力していた。 このような状況において、580特許の発明者は効率的で正確な取引装置の必要性を感じ、口頭申込と聴き取りというプロセスを使わずに、取引を自動的に行うシステムの開発を始めた。市場において、仲介人はこれから取引しようとする取引量を知られたくない。しかしながら、顧客に、独占的に取引量を知らせ、売り上げを上げるということも行われている。この独占的に知らされる権利(Workup Right)にはOld RuleNew Ruleとがある。

 Old Ruleでは、最初の売手と買手との間で取引決済(transaction)が完結したときに、新しい買手と売手にWorkup Rightが順次与えられる。このOld Ruleでは売手と買手とが市場で連携して利益が大きくなるまで取引を保留するという問題がある。仲介人は機会損失を避けるために他の取引方法を行うようになる。そのため、取引量が多くなると、市場が混乱することがある。

 原告CANTORはこの問題の解決のためにNew Rule1994年に設計した。New Ruleでは、先ず、最初の売手と買手にWorkup Rightが与えられ、最初の売手と買手が取引交換(trade)を終えた後、申込は時間優先順位内において即時に行われる。最初の組の独占権を制限することで、最初の組が取引を流動化し、長い時間順番待ちしないようにした。

 1980年下期にCANTORは新しいシステムに切り替え始め、19871992年に掛けてSuper Systemと呼ばれるプログラムとソフトウェアを開発した。このSuper SystemOldRuleまたはNewRuleのいずれにも対応できるようなコードを含んでいた。

 1993年にSuper SystemCANTOR社のトレーディングルームで使用したが、あまりに処理速度が遅く自動取引を商業的に行うことができず、公開セリ売買をサポートするための申込入力システムとしてだけ1995年まで使用した。

 その間、改良版CFTS3.1の開発を行い、1995年のクリスマスから元日までの週に使用し、商業的使用に十分であることを確認した。

 580特許はOutcryに関するCFTS3.1発明を請求するもので、19961213日に出願された733特許出願の継続出願(526出願)で提出されたものである。733出願は1999518日に974特許として登録された。

 この974特許で、訴外のLibertyBrokerageを特許侵害で訴えたが、733出願の審査において、上記Super SystemおよびCFTS3.1の情報を特許庁に提出していないことに気づき、訴えを取り下げた。

 974特許、526出願に関して、不公正行為になることを避けるために、3通の宣誓書と、Super SystemおよびCFTS3.1の情報を開示した複数の添付書類とを特許庁に提出した。

 発明者Paul氏の宣誓書において、「Super Systemは、NewRuleを含んで無かった。」「Super Systemのコードは仲介人が独占取引期間をコントロールできるOldRuleに基づいていた。」と宣言していた。

 該宣誓書の添付書類は1139ページ有り、その中にはSuper Systemのソースコードが含まれていた。

 審査官はCANTORの提出したものを検討し、先行技術とはしなかった。審査記録には「given due consideration」と記載した。

(地裁)

 2003630Cantorらは、被告BROKERTEC580特許の侵害で地裁に提訴した。

 先ず、特許庁に宣誓書を提出したことによって、Super Systemに関して発明者と弁護士との間での議論内容の守秘特権は放棄されたとして、宣誓書にかかわる書類の提出を地裁は求めた。

 そして、地裁は、200499日に、審査経過禁反言により均等論による侵害はないと略式判決した。公判において、陪審は、被告は特許侵害していると評決したが、112条の開示要件違反により特許無効との判決した。さらに、不公正行為があったとして権利行使不能の判決をした。

 不公正行為について2つの点を地裁は挙げた。

 1)Super System733出願の1年以上前から使われていたのだから、733出願の審査中に重要な先行技術として提出すべきであった。発明者はSuper Systemの開発に深く係っていたのだから、この不開示はPTOを騙す意図があったと考えられる。580特許は733出願(974特許)との関係が深い。733出願中の不公正行為は580特許にも影響する。526出願中の発明者宣誓書によって不公正行為を正すことはできない。

 2)特許庁に提出された3通の宣誓書は、Super Systemについての重要な誤情報を含んでいた。すなわち、「Super SystemNewRuleのためのコードを含んでいない。」との宣言は、真実でない。地裁はこの誤情報は重要性があるとした。この誤情報が、審査官に「Super SystemNewRuleを含まない」と信じ込ませることになった事実は、騙す意図があったと考える。

(CAFC)

 不公正行為は、騙す意図を持って、重要事実の積極的な虚偽陳述、重要情報の不開示、または誤情報の提出する行為である。

 虚偽陳述または不開示が非常に重要な場合は、騙す意図が小さくても、不公正行為になる。重要性レベルと騙す意図レベルとのバランスを考慮し、権利行使不能の決定をしなければならない。

 ◎重要性:

 原告は「①NewRuleのためのコードを使用したということにならない。」「②宣誓書とともに真実のソースコードが記載された書類を提出している。」として発明者の宣言は重要でないと主張した。

 しかし、重要性は、合理的な審査官が特許すべきか否かを判断する上でそれを重要と考えるか否かの基準で、決定される。虚偽宣言や不実の宣誓書の提出は本来的に重要である。

 ①NewRuleのためのコードを使用してないとしても、SuperSystemに該コードが含まれていたということを発明者は知っていた。SuperSystemに該コードが含まれているという事実は合理的審査官基準で重要性がある。

 ②真実の書類を提出していても、それが「書類攻めBlizzard of Paper」になり、不実の宣誓書で審査官にさらなる調査を要しないと誤認させている。真実の情報を開示したということにならない。

 ◎騙す意図:

 騙す意図は、出願人のすべての行動周辺の事実及び状況から判断される。

 原告は、「宣誓書とともに真実のソースコードが記載された書類を提出したのは、善意の行動」であると主張した。

 しかし、供述書の積極的な提出は、それが依拠されること(審査官がその供述書によって影響されること)を意図したものと解釈される。宣誓書は"the chosen instrument of an intentional scheme to deceive the PTO"であるとして、騙す意図ありと認定した。

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June 03, 2007

Medimmune, Inc. v. Genentech, Inc. 05-608 -- On January 9 2007 (米国連邦最高裁判所判決)

(上告までの経過)

 Genenteck社(以下G社)は、USP 4,816,567Cabilly I1特許)と、その継続出願特許USP 6,331,415Cabilly II特許)を所有していた。 Cabilly I1983年に出願されたもの、Cabilly II1988610日に出願されたものである。

 Celltech社(以下C社)は1983325日の英国出願を優先権の基礎とするUSP 4,816,397Boss特許)を所有していた。

 135条の規定により、Cabilly IIBossとの間でインターフェアレンスが宣言され、米国特許庁において7年半の間審理された結果、米国特許庁はBoss特許が先発明であるとの決定をした。

 G社はCA北地区地裁に146条に基づきインターフェアレンスの決定に不服を申し立て提訴した。地裁はG社とC社に調停(Mediation)による解決を促し、両者は調停手続に移行した。その結果両者はCabilly IIBossに対して先発明であることで和解合意した。さらに両者はクロスライセンスを行うことでも合意した。地裁は特許庁に決定を取り消し、Bossを無効にし、Cabilly IIを特許登録するように指示した。

 G社とC社は地裁判決を以って特許庁に申請した。特許庁はBoss特許を無効とした。Cabilly IIについては1991年のIDSが未審査であったとして、再審査を行い、20011218日に特許登録された。

 Medimmune社(以下M社)は1997年にG社からCabilly IおよびCabilly IIのライセンスを受ける契約をした。1998年にC社からBossのライセンスを受ける契約をした。Cabilly IIが特許登録された後、G社はM社にM社製品SynagisCabilly IIに包含されており、実施料を支払うように求めた。

 M社はライセンス契約が無効になることを避けるために、実施料の支払いを続けた一方で、Cabilly IIの特許無効および非侵害の確認の訴えをCA中央地裁に起こした。

 地裁は、2004年のProbe判決(CAFC)に従って、実施料を支払っている間は「実際の紛争」が存在しないので、確認の訴えをすることができない。確認の訴えは、契約を解除し、両者間に実際の紛争が生じたときにできる、として、確認の訴えを却下した。

 G社とC社の和解(登録が遅れたG社特許権を残すことで特許権の存続期間が延びるような和解)は、独占禁止法違反または不正競争に相当するとのM社の申し立てを略式判決で認容している。

 CAFCは同じ理由で確認訴訟の控訴棄却した。また地裁の略式判決を支持した。

 M社は上告した。

(事件の背景)

 Probe以前:

 Alvater事件(最高裁判決1943):差止命令回避のために実施料支払いを継続した場合は争訴性がある。

 Lear事件(最高裁判決1969年):実施料を支払っているライセンシーはライセンス対象の特許の有効性を争うことができると判示した。また有効性の争いが解決するまで実施料を支払い続ける義務は無いとした。

 C.R.Bard事件(CAFC1983):ライセンシーは確認訴訟を提起する前にライセンス契約を解除する必要がないと判示した。

 Probe以降:

 Probe事件(CAFC2004):ライセンス契約に重大な違反がない限り、ライセンサーがライセンシーに対して特許侵害で訴えるという合理的懸念は生じない。また差止命令が存在しないのだからAlvater事件の適用もない。ライセンス契約を遵守しているライセンシーがライセンス対象の特許に関する確認の訴えを起こすことはできないとした。

(最高裁の判断)

 M社が仮に実施料の支払いを停止したら、「実際の紛争」が生じ、確認訴訟の要件を満たすことになる。

 また、G社はM社が特許を使用しているから実施料を支払う義務がM社にあると主張している。一方、M社は特許無効または非侵害であるから実施料を支払う義務が無いと主張し、さらに実施料の支払いを実際に拒否すれば、差し止められるおそれ、(3倍)賠償支払のおそれがあると主張している。

 M社は、事前に異議を唱えて、実施料を支払っている。(差し迫った危険な状態にならないように一先ず回避している。) Alvater事件から、支払いが自発的でない、または強制によるものであった場合には支払った金額を回収しまたは支払い請求の適法性を争う権利は失われない。

 実施料の支払い義務があるのか否かについて両者間に「実際の紛争」があり、差し止め請求訴訟を起こされる合理的懸念もある。

 この合理的懸念には、差し止め請求等が差し迫ったような危険な状態になっていることまでを要求していない。

 以上のことから、M者は確認訴訟を起こすことができると、最高裁は判決した。

                                                                                                                              以上。

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