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October 28, 2008

Star Scientific, Inc. v. R.J. Reynolds Tobacco Co. CAFC 2007-1448 August 25, 2008

Star Scientific, Inc. v. R.J. Reynolds Tobacco Co.
CAFC 2007-1448 August 25, 2008

不公正行為事件における明白かつ説得力ある証拠による重要性と騙す意図の両方の閾値を示すことの要求を重視した。

MICHEL, SCHALL and DYK(判決MICHEL)

(概要)地裁は、権利者に不公正行為があったとして、権利行使不能とする判決をした。
 CAFCは、地裁の判決は審理不十分であるから、差し戻した。

(背景)
 生タバコをシガレット等にする前にcuringと呼ばれる乾燥工程を行わなければならない。
 この乾燥方法として4つの方法が知られている。
 1)空気curing : 熱を掛けずに乾燥した空気でタバコを乾かす方法
 2)輻射熱curing : 火炎の排気熱風をパイプに通し、そのパイプからの輻射熱でタバコを乾燥する方法。
 3)直接火炎curing : 火炎の排気熱風をタバコに直接吹き付けて乾燥する方法。
 4)強制的空気間接火炎curing : 清浄な空気を火炎熱で熱し、加熱された清浄空気をタバコに吹きつけ乾燥する方法。

 60年代、アメリカのタバコ会社は主に輻射熱curingを用いてタバコを乾燥させていた。そして、70年代までに、ほとんどのタバコ会社は直接火炎curingに切り替え、90年代後半まで、この方法が広く使われた。
 乾燥タバコには多くの有害物質が含まれている。生タバコには含まれていない亜硝酸アミン類(TSNAs)のような発がん性物質も乾燥タバコには含まれている。
 90年代になって、TSNAsの生成が、火炎直接curingに起因していることが分かった。
 そこで、研究者はTSNAの生成が少ないcuring方法の開発を始めた。

 1998年夏、Star社の発明者Williams氏は、TSNAsが生成しにくcuring法に関する出願をSughrue事務所のDelmendo弁護士に依頼した。
 W氏はタバコ葉に付いた微生物の存在がTSNAs生成に影響しているとの仮説を立てた。この仮説によれば、直接火炎curingでは、二酸化炭素の生成によって生タバコ周辺の酸素が減り、微生物は嫌気性的な代謝を強いられる。すなわち、葉の劣化によって生成した硝酸塩の還元酸化反応によって酸素を得ようとする。この反応によって亜硝酸塩が生成し、さらにいくつかの反応を経てTSNAsに成ると考えた。
 W氏の発明は、乾燥室内の空気流量、湿度、および温度を調整して酸素濃度の低下を減らすことによってTSNAsの生成を抑制し、微生物の嫌気性的な代謝を減らすものである。

 1998年8月28日に、W氏の特許出願の準備のために、Star社のBurton博士が、Delmendo弁護士に書簡を送った。
 この書簡には「中国製のタバコはTSNAsの含有量が少ないこと、及び、「アメリカでは60年代に廃れてしまったが、中国では未だに輻射熱によってタバコの葉の乾燥を行っており、TSNAsが少ないのはおそらくこのcuring法によるからであろうと思う。」と記載されていた。
 Delmendo弁護士は、B博士と話をし、そして、この手紙の内容を分析した結果、出願に関連する重要事項でないと判断した。
 1998年9月15日にDelmendo弁護士は仮出願を提出した。仮出願には「中国などの他国では依然として輻射熱乾燥法を使用している。」を記した。さらに「米国で採取されたタバコに輻射熱乾燥法を適用したが、その葉には高いレベルのTSNAsが含まれる。」ことを記述した。この記述は、W氏の推論に基づくものであった。この推論は、輻射熱法によって乾燥させたブラジルタバコには2~3ppmのTSNAが含まれているという、競合他社からの情報に基づくものであった。

・出願後、Williams氏は、アメリカの二つのタバコ農場から輻射熱法で乾燥されたサンプルを受け取った。一の農場サンプル(Jennings data)は、TSNAが1.0~1.5ppmであった。もう一つの農場サンプル(Curran data)は、TSNAが0.39ppmであった。Curran dataのサンプルは輻射熱法によって部分的な乾燥がされたものであったので、分析に先立ちマイクロ波で乾燥させたものであった。
 Williams氏は、Delmendo弁護士にJennings dataを電話で伝えたが、その実際の数値データを書類で示さなかった。Curran dataについては、伝えなかった。Delmendo氏は、W氏と一緒に検討し、Jennings dataは、発明者の方法よりもTSNAを減少させる量が少なかったので、重要事項ではないと判断した。

 1999年9月15日、本出願が提出された。仮出願の記述がほとんどそのまま引き継がれたが、「アメリカ産タバコ葉を輻射熱法で乾燥したものは、TSNAを高レベルで含む」旨の記述は削除された。一方で「比較的低速の空気流を乾燥室に送ることができる熱交換器を使用した火炎排気熱風による乾燥方法において火炎排気熱風を乾燥室に導入しないことによってTSNAを削減できること見出し、本発明はこの知見に基づくものである」と開示した。
 D弁護士は、この新たな開示はW氏とJennings dataについて議論した結果であると証言している。

 Williams氏とStar社は、本件の取り扱いをSughrue事務所からRivart弁護士及びHoscheit弁護士の居るBanner&Witcoff事務所に切り替えた。
 Hoscheit弁護士はSughrue事務所のD氏及び他の弁護士と会い、書類の移転及び出願の状況を議論した。Rivard弁護士は先行技術を調査したがBurton書簡には気づかなかった。

 2000年2月15日、R弁護士は上申書とともにIDSを提出した。このIDSにはBurton書簡は含まれていなかった。
 2000年9月14日に特許許可通知がされ、2001年3月20日に6202649特許が発行された。

 2000年9月25日、R弁護士は、継続出願を行った。親出願において提出した先行文献と同じものを添付したIDSを提出した。このIDSにはBurton書簡は含まれていなかった。

 S社は、2001年5月23日にR.J. Reynolds Tabacco Company (R社)を649特許の発明を侵害しているとして提訴した。
 649特許侵害事件のディスカバリーにおいてR社が提出した先行技術文献を継続出願の追加IDSとして提出した。さらにR社の無効主張に対して反論したものを特許庁に開示した。
 2002年1月に継続出願は特許許可され、2002年4月に特許発行料を支払った。
 特許発行を待っている間に、Rivard弁護士は、侵害事件の弁護士からの情報で、Burton書簡およびCurran dataの存在を知った。検討した結果、これらの情報は重要事項でないので、US特許庁に提出する必要は無いと判断した。
 継続出願について、2002年7月30日に、425401特許が発行された。
 S社は401特許の侵害主張を侵害事件の争点に加えた。

・地裁は、2007年6月26日に、Burton氏のレターは重要なものであり、Star社がそのレターを提出しなかったのはUS特許庁を欺く意図があったものであり不正行為があったと判断し、Star社の2つの特許は権利行使不能であると判決した。
 S社は控訴した。

(CAFCの判断)
Ⅰ. 不公正行為
 一般論: 被疑侵害者が権利者の不公正行為を立証する責任がある。
 不公正行為の立証を成功させるために、被疑侵害者は、
 (1)the applicant made an affirmative misrepresentation of material fact, failed to disclose material information, or submitted false material information, 重要事項の不実陳述、重要情報の不開示、または虚偽情報の提出(重要性)と、
 (2)the applicant intended to deceive the [PTO].PTOを騙す意図と、
 を示す証拠を提示しなければならない。
 さらに、それぞれ(materialityおよびintent to deceive)についての閾値を明白且つ説得力ある証拠で立証しなければならない(Digital Control Inc. v. Charles Mach. Works, 437 F.3d 1309, 1313 (Fed. Cir. 2006)。
 この引き上げられた立証責任を果たしたとしても、地裁は、equityの観点から、出願人は権利行使不能とされるほどにとんでもないことegregiousをPTOにしたか否かを決定しなければならない。
 だから、明白かつ説得力ある証拠により重要性と騙す意図の両方の閾値を立証できたとしても、裁判所は権利行使不能との判決をしなくてもよい場合がある。

 不公正行為によって権利行使不能とする罰則は、もともとは、特許庁に対する詐欺行為(Fraud on the Patent Office)の場合に適用されていたものである。特許性のある発明についての権利をすべて行使不能にするという厳しい罰則であるから、厳格な適用が要求される。

 ところが、判例法によって、Fraudよりも軽い行為、不品行、不始末などの不公正行為にも適用が拡大されていった。罰則は同じ厳しさのままで,
 そこで、明白かつ説得力ある証拠により、重要性と騙す意図の立証ということを要求するようになった。
 重要性と騙す意図とは、別の要件事実である。すなわち、非開示の情報に重要性があるから騙す意図があったとは必ずしもしない。
 重要情報は一つだけ開示すればよく、重複内容の文献を多数積み上げても意味がない。
 騙す意図は、直接的または間接的な状況証拠によって判断される。
 重要性と騙す意図とのバランスを考慮して判断している。
 そして、罰則の厳しさと、重要性及び騙す意図とを、equityの観点で判断する必要がある。

 本事件への適用: Star社は、シュグル事務所から変更した理由は主要パートナーの死亡であり、シュグル事務所の他の弁護士が本件を扱うには不十分であったと主張した。地裁は、この証言を信用できるものでは無いと、判断した。
 しかしながら、RJR社は、単に、Star社が信頼できる説明をしなかったことを指摘するだけでは不十分であり、この申立を立証する必要がある(被疑侵害者の方が騙す意図及び重要性の明白且つ説得性のある証拠で立証しない限りは、特許権者は反証責任を負わない)。Star社は、シュグル事務所から変更する前にBurton氏の手紙が指摘したことを認識していた、ということを示す証拠をRJR社は示していない。また、その手紙が事務所を変更する理由であったということを示す証拠も示していない。したがって、PTOを欺く意図はなかったと判断する。(半導体研究所事件参照;重要事項をIDSで提出しようとしていた代理人を解任して、別の代理人によって審査手続を進めさせたとの事実が立証された。)
 更に、Burton氏のレター及びCurran dataに関する情報は、既に提出されたものであり、したがって、その情報は重複した情報であるので重要なものではない、と判断する。
 したがって、地裁が、両特許は権利行使不能であると判断したのは誤りである。

Ⅱ. 定義不明瞭(記載要件 112条2項)
 本事件で争点となった649特許のクレーム4は下記のとおりである。
A process of substantially preventing the formation of at least one nitrosamine in a harvested tobacco plant, the process comprising:
drying at least a portion of the plant, while said portion is uncured, yellow, and in a state susceptible to having the formation of nitrosamines arrested, in a controlled environment and for a time sufficient to substantially prevent the formation of said at least one nitrosamine;
wherein said controlled environment comprises air free of combustion exhaust gases and an airflow sufficient to substantially prevent an anaerobic condition around the vicinity of said plant portion; and
wherein said controlled environment is provided by controlling at least one of humidity, temperature, and airflow.

 地裁はanaerobic conditionの定義が不明瞭であるとして、特許無効と判断した。

 控訴における争点になっていないが、CAFCはこの判断について、次のように述べている。

 112条2項が要求するクレームの明確性は、「請求の範囲には、出願人が発明であるとする事項を特定し、明確に記載する」ことに基づくものである。
 先例においては、クレームの記載が、解釈に耐えられない場合(amenable to construction)又は解決不能に多義的(insolubly ambiguous)である場合にだけ、indefinite(不明瞭)であるとしてきた。
 クレーム解釈が困難であるということだけで、クレームの用語が不明瞭とはしていない。

 度合いを表す用語を用いた場合には、その度合いを測定するための基準を明細書に記述しなければならないと、先判例で述べてきた。
 本事件において地裁は、anaerobic conditionが、微生物の硝酸還元活性を発生させる、酸素の欠乏状態を意味していると解釈した。
 anaerobic conditionは酸素欠乏状態の度合いを示していると言える。
 
 また、地裁は、substantially prevent the formation of said at least one nitrosamineを、NNNが約0.05μg/g未満、NAT+NAGが約0.10μg/g未満、NNKが約0.05μg/g未満を満たすNTSAの発生量にすることであると解釈した。
 このNTSAの発生量は4つの化合物だけの測定結果を考慮している。
 
 だから、anaerobic conditionは、TSNAの発生量によってその輪郭が明確になっており、定義不明瞭ではない。よって地裁の判断は誤りである。

以上。

(補遺)
情報開示義務(Information Disclosure Statement)
  と不公正行為(Inequitable conduct)

情報開示義務:
◎対象となる出願:
 通常出願(植物特許出願、意匠出願も含む)
 reissue、reexamination
 継続出願、分割出願、CIP出願
(親出願の審査で考慮された文献については再度提出する必要はない。考慮されていない文献については、再度提出する必要がある。
 RCEについては、その出願の審査で考慮された文献については再度提出する必要はない。
 PCT移行出願における国際調査報告で引用された文献については審査官が必然的に考慮するので提出する必要がない。
◎IDS提出の義務を負う者
 発明者
 出願の準備または手続を行った弁護士または弁理士
 実質的に出願の準備または手続に関わった者(知的財産部員等)
◎提出時期
 1)出願日(PCT移行日)から3ヶ月・1st OAの発送日のいずれか遅い方の前
 無料
 2)Final OA/NOAの発送前
 statementの提出(提出の3ヶ月以内に対応外国出願のアクションにおいて引用された文献、提出の3ヶ月以上前には開示義務を負う者が知らなかった文献)
 feeの支払(上記以外の文献)
 3)Final OA/NOAの発送後~Issue Feeの支払前
 feeの支払+statementの提出
 4)Issue feeの支払い後
 特許発行前は、RCEにpetition (issueの取下を申請するもの)をつけてIDSを提出することができる。
 特許発行後は、情報開示義務がなくなるのでIDSを提出する必要ないが、特許性について疑義が生じるようなものであれば、reexaminationを行い、審査官にその文献を考慮してもらうのがよい。

◎提出するもの
 文献のリスト
 文献のコピー
 非英語文献に対する関連性についての英語による簡単な説明

◎情報開示義務怠惰
 fraudであるとして、その特許に係るすべてのクレームがunpatentableまたはinvalidとなる。

不公正行為:
 重要性 × 詐欺的意図

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October 06, 2008

訂正請求と訂正審判の請求との相違 ~最高裁 平成19年(行ヒ)318 20.7.10判決

(背景)
特許第3441182号本件特許(請求項1~4に係る特許)に対し特許異議の申立てがされ,特許庁に異議事件として係属したところ,同事件の係属中の平成17年12月7日,特許権者は,特許法旧120条の4」の規定に基づき,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の訂正を請求した(以下,この訂正を「本件訂正」という。)。本件訂正は,特許請求の範囲の請求項1を訂正する訂正事項a,同2を訂正する訂正事項b,同3を訂正する訂正事項c,同4を訂正する訂正事項dから成り,訂正事項aは特許請求の範囲の減縮,同bは明りょうでない記載の
釈明を目的とするものであると特許権者は主張した。
 特許庁は、訂正事項bは,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的とするものでなく,また,特許請求の範囲を実質上拡張するものであるから,特許法旧120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書又は2項の規定に適合しない。よって,その余の訂正事項について判断するまでもなく,訂正事項bを含む本件訂正は認められない。よって訂正前の特許は取り消すとの審決をなした。
 特許権者は審決取消訴訟を起した。
 高裁は、本件決定は,訂正事項bが訂正の要件に適合しないことを理由に,他の訂正事項について判断することなく,本件訂正の全部を認めなかったものであるが,その判断に違法があるということはできないと認定し、本件決定の取消しを求める上告人の請求を棄却した。その根拠として、最高裁昭和53年(行ツ)第27号,第28号同55年5月1日第一小法廷判決(民集34巻3号431頁参照)を示した。該最高裁判決では「その訂正が特許請求の範囲に実質的影響を及ぼすものである場合には,請求人において訂正(審判)請求書の訂正事項を補正する等して複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しない限り,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決又は決定をしなければならず,たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係になく,かつ,一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のあるときであっても,その箇所についてのみ訂正を許す審決又は決定をすることはできないと解するのが相当である。と述べている。
 特許権者は上告した。

(最高裁の判断)
特許取消の決定を取り消すとの判決をした。
 (1)特許法は,
 A)一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生するという基本構造を前提とし複数の請求項を一体不可分のものとして取り扱う規定と、
 B)複数の請求項に係る特許ないし特許権の一体不可分の取扱いを貫徹することが不適当と考えられる一定の場合には,特に明文の規定をもって,請求項ごとに可分的な取扱いを認める旨の例外規定を置いている。
 たとえば、特許法旧113条柱書き後段が「二以上の請求項に係る特許については,請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。」と規定するのは,そのような例外規定の一つにほかならない(特許無効審判の請求について規定した特許法123条1項柱書き後段も同趣旨)。
 (2)訂正審判に関しては,特許法旧113条柱書き後段,特許法123条1項柱書き後段に相当するような請求項ごとに可分的な取扱いを定める明文の規定が存しない上,訂正審判請求は一種の新規出願としての実質を有すること(特許法126条5項,128条参照)にも照らすと,複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,複数の請求項に係る特許出願の手続と同様,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。
 (3)一方、特許法旧120条の4第2項の規定に基づく訂正の請求(以下「訂正請求」という。)は,特許異議申立事件における付随的手続であり,独立した審判手続である訂正審判の請求とは,特許法上の位置付けを異にするものである。訂正請求の中でも,本件訂正のように特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とするものについては,いわゆる独立特許要件が要求されない(特許法旧120条の4第3項,旧126条4項)など,訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されており,訂正審判請求のように新規出願に準ずる実質
を有するということはできない。そして,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる特許異議に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許異議事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになる。
 (4)以上の諸点にかんがみると,特許異議の申立てについては,各請求項ごとに個別に特許異議の申立てをすることが許されており,各請求項ごとに特許取消しの当否が個別に判断されることに対応して,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるものと考えるのが合理的である。
 (5)最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決は,いわゆる一部訂正を原則として否定したものであるが,複数の請求項を観念することができない実用新案登録請求の範囲中に複数の訂正事項が含まれていた訂正審判の請求に関する判断であり,その趣旨は,特許請求の範囲の特定の請求項につき複数の訂正事項を含む訂正請求がされている場合には妥当するものと解されるが,本件のように,複数の請求項のそれぞれにつき訂正事項が存在する訂正請求において,請求項ごとに訂正の許否を個別に判断すべきかどうかという場面にまでその趣旨が及ぶものではない。
 (6)特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないというべきである。
 (7)本件決定は,請求項2に係る訂正事項bが訂正の要件に適合しないことのみを理由として,請求項1に係る訂正事項aについて何ら検討することなく,訂正事項aを含む本件訂正の全部を認めないと判断したものである。これを前提として本件訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の認定をし,請求項1に係る部分を含む本件特許を取り消した本件決定には,取り消されるべき瑕疵があり,この瑕疵を看過した原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

(無効審判中の訂正請求はどうなるか?)
 本件は、旧法における特許異議申立事件における訂正請求の扱いを判断したものであるが、特許無効審判請求事件における訂正請求(特許法134条の2)の扱いも同様に扱われるのではないかと考える。なぜなら、上記最高裁の認定理由と同様に,
 134条の2の訂正請求は、特許無効審判請求事件における付随的手続である。
 訂正請求の中でも,特許無効審判請求されている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とするものについては,いわゆる独立特許要件が要求されない(特許法134条の5,126条5項)。
 特許無効審判請求がされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに請求をすることができる特許無効審判請求に対する防御手段としての実質を有するものである。
 特許無効審判請求事件中において訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判請求事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになるからである。
 よって、上記最高裁の認定と同様に,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断されることになると考える。
以上。
 

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