June 13, 2008

特許権の消尽~「修理」なのか「生産」なのか~

キヤノンインクカートリッジ事件
(最高裁平18年(受)826、知財高裁平17(ネ)10021、東地裁平16(ワ)8557)

(事実関係)
1)原告(特許権者)の特許権(第3278410号;「液体収納容器,該容器の製造方法,該容器のパッケージ,該容器と記録ヘッドとを一体化したインクジェットヘッドカートリッジ及び液体吐出記録装置」)の請求項1は下記のとおり、Cannoninkjet

『A 互いに圧接する第1及び第2の負圧発生部材を収納するとともに液体供給部と大気連通部とを備える負圧発生部材収納室と,
 B 該負圧発生部材収納室と連通する連通部を備えると共に実質的な密閉空間を形成するとともに前記負圧発生部材へ供給される液体を貯溜する液体収納室と,
 C 前記負圧発生部材収納室と前記液体収納室とを仕切るとともに前記連通部を形成するための仕切り壁と,
 D を有する液体収納容器において,
 E 前記第1及び第2の負圧発生部材の圧接部の界面は前記仕切り壁と交差し,
 F 前記第1の負圧発生部材は前記連通部と連通するとともに前記圧接部の界面を介してのみ前記大気連通部と連通可能であると共に,
 G 前記第2の負圧発生部材は前記圧接部の界面を介してのみ前記連通部と連通可能であり,
 H 前記圧接部の界面の毛管力が第1及び第2の負圧発生部材の毛管力より高く,かつ(I及びJは欠番),
 K 液体収納容器の姿勢によらずに前記圧接部の界面全体が液体を保持可能な量の液体が負圧発生部材収納室内に充填されている
 L ことを特徴とする液体収納容器。』

 請求項10は下記のとおり、
『A’ 互いに圧接する第1及び第2の負圧発生部材を収納するとともに液体供給部と大気連通部とを備える負圧発生部材収納室と,
 B’ 該負圧発生部材収納室と連通する連通部を備えると共に実質的な密閉空間を形成するとともに前記負圧発生部材へ供給される液体を貯溜する液体収納室と,
 C’ 前記負圧発生部材収納室と前記液体収納室とを仕切るとともに前記連通部を形成するための仕切り壁と,を有し(D’は欠番),
 E’ 前記第1及び第2の負圧発生部材の圧接部の界面は前記仕切り壁と交差し,
 F’ 前記第1の負圧発生部材は前記連通部と連通するとともに前記圧接部の界面を介してのみ前記大気連通部と連通可能であると共に,
 G’ 前記第2の負圧発生部材は前記圧接部の界面を介してのみ前記連通部と連通可能であり,
 H’ 前記圧接部の界面の毛管力が第1及び第2の負圧発生部材の毛管力より高い
 I’ 液体収納容器を用意する工程と,
 J’ 前記液体収納室に液体を充填する第1の液体充填工程と,
 K’ 前記負圧発生部材収納室に,前記液体収納容器の姿勢によらずに前記圧接部の界面全体が液体を保持可能な量の液体を充填する第2の液体充填工程と,
 L’ を有することを特徴とする液体収納容器の製造方法。』

2)被告の製品
 ア 被告は,中国マカオにある会社(以下「甲会社」という。)から,インクタンク(「被告製品」)を輸入した。
 イ 甲会社の関連会社(以下「乙会社」という。)は,原告製品のインクを使い切って残ったインクタンク本体を北米,欧州及び日本を含むアジアから収集し,それを乙会社の子会社(以下「丙会社」という。)に売却している。
 ウ 丙会社は,次の手順で,インクタンク本体から製品化している。
  ① インクタンク本体の液体収納室の上面に,洗浄及びインク注入のための穴を開ける。
  ② インクタンク本体を洗浄する。
  ③ インクタンク本体のインク供給口からインクが漏れないようにする措置を施す。
  ④ ①の穴から,負圧発生部材収納室の負圧発生部材の圧接部の界面を超える部分まで及び液体収納室全体にインクを注入する。
  ⑤ ①の穴及びインク供給口に栓をする。
  ⑥ ラベル等を装着する。
 エ 甲会社は,丙会社から,被告製品を買い入れ,これを日本に輸出している。
 オ 被告は,平成16年6月まで被告製品の輸入販売を行っていたが,税関による輸入禁制品の認定手続が開始されるなどしたため,この訴訟の係属中,その輸入を中止している。

(争点)
 (1) 原告製品の日本国内及び海外における販売により,物の発明である本件発明1についての特許は消尽したか。
 (2) 原告製品の日本国内及び海外における販売により,物の生産方法の発明である本件発明10についての特許は消尽したか。又は黙示の許諾があったか。

(最高裁の判断)
 原審(知財高裁)の判断基準、それに基づく判断は、採用できない。
『特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者(以下,両者を併せて「特許権者等」という。)が我が国において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品の使用,譲渡等(特許法2条3項1号にいう使用,譲渡等,輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をいう。以下同じ。)には及ばず,特許権者は,当該特許製品について特許権を行使することは許されないものと解するのが相当である。』

『特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使することが許されるというべきである。
 そして,上記にいう特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判断するのが相当であり,当該特許製品の属性としては,製品の機能,構造及び材質,用途,耐用期間,使用態様が,加工及び部材の交換の態様としては,加工等がされた際の当該特許製品の状態,加工の内容及び程度,交換された部材の耐用期間,当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となるというべきである。』

『我が国の特許権者又はこれと同視し得る者(以下,両者を併せて「我が国の特許権者等」という。)が国外において特許製品を譲渡した場合においては,特許権者は,譲受人に対しては,譲受人との間で当該特許製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨の合意をした場合を除き,譲受人から当該特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては,譲受人との間で上記の合意をした上当該特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて,当該特許製品について我が国において特許権を行使することは許されない。(BBS事件最高裁平成9年7月1日第三小法廷判決)
 これにより特許権の行使が制限される対象となるのは,飽くまで我が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品そのものに限られる。』
『我が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,我が国において特許権を行使することが許されるというべきである。
 そして,上記にいう特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては,特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされた場合と同一の基準に従って判断するのが相当である。』

本件への適用:
『上告人製品の製品化の工程における加工等の態様は,単に費消されたインクを再充てんしたというにとどまらず,使用済みのインクタンク本体を再使用し,本件発明の本質的部分に係る構成(構成要件H及び構成要件K)を欠くに至った状態のものについて,これを再び充足させるものであるということができ,本件発明の実質的な価値を再び実現し,開封前のインク漏れ防止という本件発明の作用効果を新たに発揮させるものと評せざるを得ない。』『インクタンクの取引の実情など前記事実関係等に現れた事情を総合的に考慮すると,上告人製品については,加工前の被上告人製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認めるのが相当である。したがって,特許権者等が我が国において譲渡し,又は我が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品である被上告人製品の使用済みインクタンク本体を利用して製品化された上告人製品については,本件特許権の行使が制限される対象となるものではないから,本件特許権の特許権者である被上告人は,本件特許権に基づいてその輸入,販売等の差止め及び廃棄を求めることができるというべきである。』

2.米国特許における「修理」と「再生産」

 米国における消尽(First Sale Doctrine):

 「特許製品が販売されると、それは購入者の私有財産となり、特許法による保護は及ばなくなる。」
 購入した特許製品の加工や部材の交換が、「許容される修理」であれば権利行使できない。「禁じられた再生産」であれば権利行使が可能。

 特許製品の譲受人は、特許製品を使用、修理、修正、廃棄、再譲渡する権利を持つが、製品を生産する権利は特許権者に留保されるので、新たな製品を生産することはできない。
 譲受人が持つ特許製品の所有権には、購入した特許製品の耐用期間を維持する権利を含む。

 修理/再生産の判断基準
1)当該特許製品の性質(改造品と特許製品との同一性)
2)当該特許製品の構成
 特許製品を構成する部材の一つが、特許製品全体の寿命に比べ、短い寿命しかないか否か ⇒製品全体の効用期間内であれば、部材の交換は修理と看做される可能性高くなる。
 一方で、交換部材が特許製品の重要部分であるか否か。この点は米国では低く評価され、日本では高く評価される傾向があるようだ。
3)当該修理対象の部材の製造や、サービスを提供する市場が発達しているか否か。(リサイクル業者による部材の交換を容認する傾向?。)
4)特許権者の意思(「使い捨て品」であるとの表示は単なる要望と看做される可能性が高い。契約書、同意書による場合(条件付販売)には、強制力が働く。)

3.米国では製品全体の効用期間内であれば、部材の交換は、「修理」と認定される可能性が高く、権利行使は難しい傾向がある。また、単に製品に「使い捨て」と記載しただけでは強制力がないので、そこで、米国では、条件付販売(製品の使用方法(例えば、ソフトウエアのインストール回数、装置を接続できる機種)を制限して販売)をすることで、該当条件以外の行為では消尽せず、特許権の行使を認めるようである。(米国最高裁において、この条件付販売に絡む事件(LG事件)について2008年6月9日に判決)

 一方、日本では、条件付き販売などによって国内消尽を防ぐことはできない。効用期間内であっても、部材の交換を「再生産」と認定する可能性がある。

(キヤノン事件の被告のその後)
 被告の現製品は、本訴訟で対象となった再生方法とは異なる方法で再生しているので、特許侵害には当たらないとして、販売を継続しているようです。なお、被告のインクカートリッジ販売量は、キヤノン、エプソンに次ぐ国内第3位なんだそうです。

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April 17, 2008

欧州 手数料の改定

2007年12月20日および2008年4月1日に料金が大幅に変更されました。出願料や出願更新料、審査請求料といった他の出願関連費用も改定によって5乃至10%値上がりとなっています。

最近の円安/ユーロ高で、欧州特許出願のコストは、嵩むばかりですので、料金体系を理解して、コストパフォーマンスを高めることをお勧めします。

○クレーム数による追加料金:
・新料金(2008年4月1日発効)
  クレーム数が15個を超える場合:200ユーロ(クレーム1個毎)
  クレーム数が50個を超える場合:500ユーロ(クレーム1個毎)〔2009年4月1日施行〕
・旧料金
  総クレーム数が10個を超える場合:45ユーロ(クレーム1個毎)

○オンライン出願を行うと80ユーロ減額されるので、現地へは電子ファイルを送るのが良いでしょう。

○指定国数:EPC2000によりEP出願を行うとみなし全指定となりますが、権利取得を希望する国の数についての指定手数料を支払うことで指定国が確定します。国の指定数を絞ることで手数料が節約できます。

 各指定締約国に対する指定手数料は1カ国85ユーロ。
  7倍の額(595ユーロ)の支払により全締約国を指定したとみなされる。

以上。

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April 16, 2008

新規性喪失の例外 ~外国ではどうなる?(2)

カナダ:
 1年以内にカナダ出願 優先権による遡及はないと思われる。米国と同じ運用。

インド:
 1年以内にインド出願 優先権による遡及はないらしい。(パテント 2008年2月号)

オーストラリア:
 特許局認可の刊行物で開示は1年以内にオーストラリア出願 優先権遡及?
 学術団体で開示は6月以内にオーストラリア出願  優先権遡及?

 上記の3カ国は英国法が基礎になっている国なので、遡及有無が不明なオーストラリアは、インドやカナダと同じ運用であろうと思います。

ブラジル:
 1年以内に出願 優先権の遡及ある。(産業財産法12条)

メキシコ
 1年以内に出願 優先権の遡及ある。(産業財産法18条)

この2カ国は、法律で、優先日以前12ヶ月との規定がありました。

韓国:平成18年3月3日施行の改正法で、全ての形態の自発的な公知行為についても6ヶ月間の新規性喪失例外規定になってますが、
 その6ヶ月を1年に延長する改正法案が国会で審議されてます。可決されると、米国同様おグレースピリオドが適用されることになります。

以上。

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韓国 指定期間の延長(2008.7~)

意見書提出などに指定される期間を、1ヶ月単位で無制限に延長できましたが、2008年7月1以降に指定される期間においては、延長は指定期間満了日から4ヶ月以内に制限されます。

4ヶ月を超える延長を必要とする場合はその理由を疎明し、審査官の審査で延長の可否が判断される。

4ヶ月を超える延長が認められる疎明理由が、韓国特許庁ホームページにて告知される予定です。

(情報元:第一廣場特許法律事務所)

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April 02, 2008

オーストラリアにおける進歩性

2002年4月1日に導入された法改正前における、サブセクション7(2):

 “この法令の目的において、発明は、クレームの優先日前に特許の領域*2において存在する一般常識に照らして、関連する技術分野における当業者にとってその発明が自明でない限り、先行技術と比較して、進歩性を有するものとし、ここで、当該一般常識は別々に考慮されるか、またはサブセクション(3)において言及されているいずれかの情報の種類と一緒に考慮され、各一般常識は別個に考慮されなければならない。”

また、サブセクション7(3):

  “サブセクション(2)の目的において、情報の種類とは:
  (a) 単一の文書においてまたは単一の行為によって、公衆に利用可能となった先行技術情報;および

  (b) 2以上の関連する文書においてまたは2以上の関連する行為によって公衆に利用可能となった先行技術情報であって、これらの文書または行為の間における関係が、特許の領域において関連する技術分野における当業者がこれらを単一の情報源として扱うであろう場合の先行技術情報;

  であって、サブセクション(2)における当業者が、クレームの優先日前に、特許の領域において関連する技術分野における実施に関連するものとして、確信、理解、および考慮したであろうことが合理的に予測できる、情報。”

サブセクション7(3) における“特許の領域において関連する技術分野における実施”とは、その特許の領域において(すなわち、オーストラリア内において)、実際に関連する技術分野における実施が存在する必要があるという意味である。

2002年4月1日の法改正により、“特許の領域において関連する技術分野における実施”との用語はサブセクション7(3)から削除された。したがって、上記要件、すなわち優先日の時点で関連技術分野においてオーストラリア内において実施されているとの要件は、2002年4月1日以降の出願日を有するケースでは適用されない。

(参考:Pizzeys Patent and Trade Mark Attorneys(ピジーズ特許&商標事務所:http://www.pizzeys.com.au/home.htm))

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November 09, 2007

オーストラリア特許~情報開示義務が廃止。

Pizzeys Patent & Trademark Attorneysからの情報http://www.pizzeys.com.au/japanese/articles.htmによると、

オーストラリア特許出願における、情報開示義務が廃止されたようです。

経過措置:

1.2007年7月22日より前に受理通知がなされた出願でない場合、情報開示義務はありません。

2.2007年7月22日より前に受理通知がなされた出願に関しては、
 以下の場合に限り、外国特許庁の調査結果を開示しなければなりません。
 (a)2007年4月22日より前に外国特許庁から調査結果が発行された場合あって、かつ
 (b)2007年4月22日より前に審査の請求がされた場合。

以上。

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November 01, 2007

米国特許法新規則に対して仮差止め

 11月1日に施行されるはずであった規則が10月31日昼過ぎに仮差止めされました。これにより、11月1以降も旧規則がそのまま適用されます。

 GlaxoSmithKline (GSK)が規則の差止めを求めて訴えていたケース(ヴァージニア東部連邦地裁)で決定されたようです。

 今後、USPTOはアピールを行うなどの動きがあると思います。また規則を修正するということも可能性としては考えられます。

 最終判決はまだですので、今後の動きを追いかける必要がありそうです。
   

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September 14, 2007

米国特許新規則に対するTIPS(私案)

1.クレームされていない発明は分割出願できない。継続出願となってしまう。将来的にクレームアップする可能性のあるものは、当初出願からクレームしておくことを考慮するのがよい。

2.クレーム数が制限を超えざるを得ない場合は、限定要求案(SRR)を用意しておくことを考慮するのが良い。

3.ESRはフロード認定の要素を孕んでいるので、ESR提出を行うよりは、クレーム削除(限定要求が出ていれば分割出願)を行うことを考慮するのがよい。

4.Patentably Indistinct Claim出願の通知
 発明者毎に米国出願を管理する体制を整えておくことを考慮するのがよい。
 日本出願から優先権主張して米国出願する場合、優先日の前後2ヶ月以内および/または米国出願日の前後2ヶ月以内に、優先日または出願日を持つ米国出願を、相互リンクさせて管理する体制を整えておくことを考慮するのがよい。
 現地代理人に上記相互リンクを知らせておくことを考慮するのがよい。

5.継続出願2回、継続審査請求1回を使い果たした後は、請願書等を付けた継続出願または継続審査請求と、審判請求とが取り得る措置としてある。審判請求の可能性も考慮するのがよい。

6.拒絶理由通知を受け取っている出願で、継続出願、一部継続出願若しくは分割出願または継続審査請求をしようと考えている場合は2007年11月1日以前に行うことを考慮するのがよい。

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米国特許新規則の改正概要 (2007.11.1施行) 改正規則施行の差止判決に対してUSPTOは控訴したようです。

1.継続出願の制限
 A.一の特許出願ファミリーにおいて、 請願書および説明書の提出なしに、
  ①2回の継続出願または一部継続出願
  ②1回の継続審査請求      ができる。
   一の特許出願ファミリーにおいて、 請願書および説明書を提出することによって、
  ①3回目以降の継続出願または一部継続出願
  ②2回目以降の継続審査請求   ができる。

 B.先の出願で限定要求を受けた発明(クレームされた発明)であり、且つ
   審査を受けていない選択されなかったクレームだけを請求する出願を分割出願という。したがって、先の出願でクレームされていなかった発明または限定要求を受けなかった発明をクレームした出願は継続出願である。自発的な分割出願は継続出願である。限定要求が取り下げになった場合、限定要求に反論(traverse)した場合、限定要求が暫定的な場合(例えばgeneric中のspeciesの選択を求められた場合)は事後的に継続出願となることがある。分割出願は当初出願またはそれのファミリー出願が係属中にできる。
 選択されなかった発明を分割出願する前に親出願のクレームから分割するクレームを削除する方がよい。選択されなかったspeciesの分割出願をする前に、genericの審査を完結させておくべきである。分割出願は後述のクレーム数制限の対象となる可能性があるので注意。

   分割出願(新たな一の出願ファミリーとなる。)において、 請願書および説明書の提出なしに、
  ①2回の継続出願または一部継続出願
  ②1回の継続審査請求      ができる。
   分割出願(一の出願ファミリー)において、 請願書および説明書を提出することによって、
  ①3回目以降の継続出願または一部継続出願
  ②2回目以降の継続審査請求   ができる。

 C.請願書等が受け容れられなかった場合は、継続出願の出願日は遡及せず、実際の提出日が出願日となる。
  請願書の可否は、先の出願の審査経過、例えば、継続出願または継続審査請求するより審判請求または上申するべきであるかどうか? 並列または直列に提出された出願の数、適切な熱意を持って補正書・意見書・証拠が提出されたかどうか? などを基準に判断される。

 D.一部継続出願した場合には、先行出願に支持されているCIP出願のクレームを明らかにしなければならない。

 E:継続出願の例
 なお、init.は親出願、cont.は継続出願、RCEは継続審査請求、div.は分割出願、およびw. Pは請願書等を要する場合、をそれぞれ表す。Newptorule1

2回の継続出願は請願書等の提出無しで並列または直列に行うことができる。
3回目以降の継続出願は請願書及び説明書が必要である。
Newptorule2
1回のRCEは請願書等の提出無しで行うことができる。
2回目以降のRCEは請願書及び説明書が必要である。

              
Newptorule3 X,Y,Zがクレームされた出願で、限定要求がなされた場合に、Xを選択し、選択されなかったY,Zを出願するときは分割出願となる。

Newptorule4 分割出願は出願ファミリーが特許庁に係属中に並列または直列におこなうことができる。

分割出願から、2回の継続出願を請願書等の提出無しで並列または直列に行うことができる。さらに1回のRCEを請願書等の提出無しで行うことができる。Newptorule5

2.クレーム数の制限
 A.独立請求項5個で且つ全請求項25個までの出願はESD(審査支援書)無しで審査がなされる。
   独立請求項6個以上または全請求項26個以上のときには最初の拒絶理由通知前にESDを提出しなければ、審査がなされない。

 B.取り下げたクレームはカウントしないので、出願人は最初の拒絶理由通知又は限定要求前に限定要求案(SRR)を提出できる。SRRが受理されると通常の限定要求と同様の効果を生じる。SRRが拒否され、限定要求が出されず、クレーム数が制限オーバーの場合には、クレームを減らすか、ESDを提出しなければならない(審査官の通知から2ヶ月以内)。SRRが拒否され別の限定要求が出された場合は、通常の限定要求に対する応答と同じ(2ヶ月以内に応答)。

 C.特許的に区別できない(Patentably Indistinct)クレームを含む他の同時係属中の出願で請求しているクレームのすべてをカウントする。ただし、発行された特許出願のクレームはカウントしない。
   上記他の同時係属中の出願(少なくとも一人の発明者が共通で且つ出願日または優先日から2ヶ月以内にある出願日または優先日をもつ出願)の存在を知らせなければならない。通知は、現実の出願日若しくは国内移行日から4ヶ月以内または他の出願の最初の出願受理通知の発送日から2ヶ月以内に行わなければならない。
例えば、下記の場合、出願Aの出願人は出願Bの存在を、出願Bの出願人は出願Aの存在を知らせなければならない。
Newptorule6
 実質的に重複した開示があり且つ出願日または優先日が同日である場合は、特許的に区別できないクレームを含む出願であると推定される。この推定に対しては、特許的に区別できるクレームだけしか含んでいないという説明をして反論することができる。また反論せずにターミナルディスクレーマーを提出することもできる。
 また、なぜ2以上の出願に特許的に区別できないクレームが含まれているのか、説明しなければならない。

Patentably Indistinct: 現地代理人に確認したところ、Obviousness-type double patenting standardの概念と同じであろうとのことでした。

 
 D.クレーム数の制限に関して、これら特許的に区別できないクレームを含む出願で請求されるクレームの総数を、それぞれの出願におけるクレーム数であるとして扱う。善良なる十分な理由がなければ、該すべての出願または一部の出願から特許的に区別できないクレームの削除を要求することができる。
 許可通知が発行されたもの、出願放棄されたもの、審判請求したもの、民事訴訟継続しているものは、カウント対象の出願としない。

 継続出願または継続審査請求後では第一回目通知を最後の拒絶理由通知にするという運用を今までどおりに行う。これを妨げるために、最後の拒絶理由通知の後、補正書・意見書または新証拠を提出することができる。
 第二回目以降の通知を最後の拒絶理由通知にすることができる。ただし、NEW GROUD REJECTIONを含むときは除く。
   NEW GROUD REJECTION:
   ①クレームの補正の結果通知が必要となったものでないこと、
   ②最初の拒絶理由通知後に提出されたIDSに基づくものでないこと
   ③ダブルパテントの拒絶理由でないこと
   ④CIP出願のクレームが先行出願でサポートされていることを明らかにした結果として必要となったものでないこと、
   ⑤クレームの一構成がミーンズ・プラス・ファンクションで表される構成であることを示した結果として必要となったものでないこと

 E.審査支援書(ESD)
 審査支援書は最初の拒絶理由通知前に提出する。
 審査支援書には、各クレームの有効出願日の決定;先行技術調査に当ってのクレーム解釈;出願人が掲げた本願発明、背景技術、および最も関連性の高い技術の理解を助けるもの;など、特許性を決定する助けと成る情報を記載する。

 審査支援書には、先行審査での調査状況(US特許分類、調査対象データベース名、調査キーワードとして使ったロジック化学構造式または配列表、調査日を含む。調査状況はクレームの全ての要件(従属要件も含む)について調べたものであること、調査対象はUS特許(US公開特許)、外国特許文献、非特許文献を含まなければならない。)、各クレーム発明に最も関連性の高い技術の文献リスト(非英語文献は翻訳要)、各文献によって開示されるクレーム要件との対比特定、特許性に関する詳細な説明、112条のサポート要件の説明が、含まれていなければならない。

 クレームを補正した結果、既提出の審査支援書の範囲を外れた場合は、または
 既提出の審査支援書に記載した文献よりも関連性の高い文献をIDSした場合は
 追加の審査支援書の提出が必要になる。

 審査支援書が不十分である場合は、クレームが補正され審査支援書が役立たない場合は、出願人に通知がされる。 2ヶ月以内(延長不可)に追加の審査支援書を提出するか、クレーム数を制限内(5/25)に減らさなければならない。

 F.クレーム数削除による手数料の払い戻し
 審査(最初の拒絶理由通知、許可通知、Ex Parte Quayleの通知)前にクレームをキャンセル(Cancel)した場合は、手数料の払い戻しを請求できる。クレームキャンセルの補正書を提出した日から2ヶ月以内(延長不可)に請求できる。取り下げた(Withdraw)クレームについての手数料の払い戻しはしない。
*Ex Parte Quayle:審査官の一方的疑問に対する拒絶理由(クワイル型指令)。先行技術によらない拒絶理由で、審査官が発明の特許性を認めるものの、クレーム等の記載不備を一方的に指摘するもの。

*CancelWithdraw: Cancelはクレームを削除すること。Withdrawは、限定要求なでによって審査の対象から徐外すること、クレームは削除されていない。

 G.特許権存続期間の調整
 クレームの制限に関する1.75(b)の手続を行わなかった場合、存続期間を減らす。

3. 経過措置
 A.継続出願の制限が下記の出願に適用される。
 ①2007年11月1日以降に提出する出願(再発行特許出願を含む。再審査請求は含まない。)
 ②2007年11月1日以降に国内移行する国際出願

 B.下記の出願は、請願書等の提出なしにもう1回継続出願を行うことができる。
 ①2007年8月21日より前に提出した出願(再発行特許出願を含む。再審査請求は含まない。)
 ②2007年8月21日より前に国内移行した国際出願

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 C.継続審査請求の制限は、
 2007年11月1日以降の継続審査請求に適用される。
 2007年11月1日以降の継続審査請求が、該出願ファミリーにおいて2回目以降の継続審査請求になる場合は、請願書等の提出が必要。

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 D.クレーム数の制限は下記の出願に適用される。
 ①2007年11月1日以降に提出する出願(再発行特許出願を含む。再審査請求は含まない。)
 ②2007年11月1日以降に国内移行する国際出願
 ③2007年11月1日より前に最初の拒絶理由通知が郵送されていない出願

 E.クレームの補正を求めない再発行特許出願にはESDは要求されない。

 F.Patentably Indistinctクレームを含む出願に関する扱いは、
 2007年11月1日以降に係属する出願 に適用される。

 2007年11月1日より前に提出された出願については、2008年2月1日または1.78(f)(1)及び1.78(f)(2)に規定の期日のいずれか遅い日までにクレーム制限の基準を満たすようにしなければならない。

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September 09, 2007

米国特許法改正案下院可決

世界で唯一の先発明主義を貫いてきた米国特許法が、先願主義に切り替わりそうです。

これによって先発明主義にならされ、のんびりと出願手続をしていた米国出願人に対して、先願主義国出願人が持っていた優位な点が無くなります。

同一土俵での勝負がこれからはグローバルに行われることになります。

米国の特許制度の大きな転換になると伴に日本の外国特許出願戦略の変更が必要になるでしょう。

上院では、先発明主義支持者の巻き返しによる、大幅な修正があるでしょうから、改正102条が最終的にどうなるか、審議状況は見離せません。

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August 22, 2007

米国特許新規則 (2007年11月1日施行)

昨日(8月21日)、米国特許の新規則が公開されました。

この規則は2007年11月1日に施行されます。

主な改正項目は

1.継続出願の制限limits on the filing of continuation applications
2.請求項数の制限limits on the numbers of claims presented in an application
3.重複出願の制限limits on the filing of patent applications with overlapping disclosure

詳細は、こちらのURLからhttp://a257.g.akamaitech.net/7/257/2422/01jan20071800/edocket.access.gpo.gov/2007/pdf/E7-15565.pdf

米国特許の出願戦略を多少変える必要が出てくるかもしれません。「改正規則要約」

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June 15, 2007

用途発明の権利取得上の基準と権利行使上の基準(II)

権利行使においては、製造販売において用途の区別を明確にしていないと侵害となる可能性ある。

権利行使平成2年(ワ)第12094号特許権差止請求事件(東京地裁平成4年10月23日)

【原告特許権の範囲(要旨)】

フマル酸ケトチフェンを有効成分とするアレルギー性喘息の予防剤。

【被告の主張】

 被告製品は、アレルギー性疾患の治療剤である。特許庁は、特許異議決定において、右引例の抗ヒスタミン作用と本件発明のヒスタミン解放抑制作用とは作用機構が異なるとし、抗ヒスタミン作用を利用した抗ヒスタミン剤の喘息への使用は症状の軽減すなわち治療を目的とするものであるが、ヒスタミン解放抑制作用を利用した場合は予防を意味するものとし、治療剤と予防剤は、その投与時期においても明らかに異なると認定している。

【裁判所の判断】

①被告らは、本件発明は本件化合物のヒスタミン解放抑制作用を利用した用途発明であるから、本件発明の特許請求の範囲にいう「予防剤」とは、「ヒスタミン解放抑制作用に基づくアレルギー性喘息の予防剤」と解すべきである旨主張する。本件発明は、既に公知の物質である本件化合物についてヒスタミン解放抑制作用という新しい性質を発見し、これを利用して未知の用途であるアレルギー性喘息を考え出した、いわゆる用途発明であるところ、用途発明にあっては、既知の物質と未知の用途との結びつきのみが発明を構成するものであって、既知の物質について発見した新しい性質は単にこの結びつきを考え出すに至ったきっかけにすぎず、この新しい性質そのものは発明を構成するものではない。

 出願人の審査中の「本件化合物の気管支喘息抑制効果はヒスタミン解放抑制作用に基づくものである」旨の主張は、従来から知られていたアレルギー性疾患の治療剤と未だ知られていないアレルギー性喘息の予防剤、という用途の相違を、前者における抗ヒスタミン作用と、後者におけるヒスタミン解放抑制作用という薬理作用から明らかにしようとしたにすぎないものであって、このことをもって技術的範囲を限定解釈するための根拠とすることはできない。

②(1)フマル酸ケトチフェンが抗アレルギー薬に属するところ、抗アレルギー薬は、一般的には、既に起こっている気管支平滑筋攣縮に対して直接的な気管支拡張作用を有しておらず、そのために、多くの場合、急性発作には効果は乏しく、効果が生ずるまでには時間も要することもあるため、気管支喘息に対してはあくまで予防薬として位置づけられていること、・・・(5)そして、ザジテン、サジフェンカプセル及びザトチテンカプセルの添付文書には、いずれも、「本剤使用にあたって」の欄において、「気管支喘息に用いる場合、本剤はすでに起こっている発作を速やかに軽減する薬剤ではないので、このことを患者に十分説明しておく必要がある。」、「本剤を季節性の患者に投与する場合は、好発季節を考えて、その直前から投与を開始し、好発季節終了時まで続けることが望ましい。」との記載があること、(6)ザジテンは、その添付文書には、アレルギー性疾患治療剤と記載されてはいるものの、医療機関においては、抗アレルギー薬として認識されており、気管支喘息の発作を予防する目的で、日常臨床において広く使用されていること、・・・

 右認定した事実によれば、被告らの製剤品は、アレルギー性気管支喘息の急性発作を引き起こしている患者に対して投与する薬剤であるというよりは、喘息と診断された患者が発作を起こさないように、予め、かつ定期的継続的に投与する薬剤であり、アレルギー性気管支喘息の発作が起こることを予防する薬剤であると認められるから、本件特許請求の範囲にいう「アレルギー性喘息の予防剤」に該当するというべきである。

③本件発明がいわゆる用途発明であり、アレルギー性喘息の予防剤という用途についてのみ技術的範囲が及ぶものであるにもかかわらず、原告が本訴において差止めの対象物とした「フマル酸ケトチフェン」については、その用途を何ら限定していないから、アレルギー性喘息の予防剤という本件発明の技術的範囲を超えた用途(他用途)についてまで差止めを求める結果となり、不当であるとの点にあるものと思われる。

 そこで、この点について、検討することとする。

・・・、このフマル酸ケトチフェンについて、その抗ヒスタミン作用を利用する等した、アレルギー性喘息の予防剤以外の用途も考えられないわけではなく・・・

 このようなアレルギー性喘息の予防剤以外の用途については本件発明の技術的範囲が及ばないことはいうまでもない。そして、前記のような認定事実をも併せて考えると、原告が差止めを求めた対象物のうち、本件発明の技術的範囲に属するのは、別紙第二物件目録記載の医薬品に限定されるというべきである。

④、被告らの製剤品について、アレルギー性喘息の予防剤以外の用途をも差し止めることとなり、不当であるとの点にあるとも解されるので、この点も検討することとする。

・・・

 本件化合物については、これを製剤販売する業者としては、アレルギー性喘息の予防剤としての用途と他用途とを用途としての適用範囲において実質的に区別することが可能なのであって、右区別をすることによって当該製剤が本件発明の技術的範囲に属していないことを明らかにすることができるのであり、他方、右用途の区別が明確になされていない場合には、本件化合物はアレルギー性喘息の予防剤としての用途と他用途とがいわば不可分一体になっているものというほかはなく、したがって、アレルギー性喘息の予防剤としての用途と他用途とを区別する方途がないのであるから、当該製剤販売業者としては、本件化合物のアレルギー性喘息の予防剤としての用途のみならず、他用途にまで本件発明の技術的範囲が及ぶことも甘受せざるを得ないものといわなければならない。

・・・被告らは、被告らの製剤品について、アレルギー性喘息の予防剤としての用途を除外する等しておらず右予防剤としての用途と他用途とを明確に区別して製剤販売していないのであるから、被告らが、その製剤品についてアレルギー性喘息の予防剤以外の用途をも差し止められる結果となったとしてもやむを得ないものといわざるをえない。

以上。

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June 14, 2007

用途発明の権利取得上の基準と権利行使上の基準(I)

権利取得においては、用途の相違(作用機序、市場など相違)を主張することが必要。

権利取得:平成18年(行ケ)第10227号審決取消請求事件

(事件概要)

 原告(花王)が特許出願したところ、被告(特許庁)から拒絶査定を受け、これを不服として審判請求をしたが、請求不成立の審決を受けたので、その審決の取消しを求めた。知財高裁は、原告請求を認めて、審決を取り消した。該出願は特許3919250号として登録された。

(審決)

 本願発明(特開平9-255548号公報):

【請求項1】アスナロ又はその抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤。

 引用文献(特開平5-345719号公報):

【請求項1】有効成分として、ヒノキ科植物(Cupressaceae)の成分であって、中間極性を有する有機溶媒、一価若しくは多価の低級アルコール、又はこれらの混合物に可溶性を示すものを含有することを特徴とする美白化粧料組成物。

【一致点】

「アスナロ抽出物を有効成分とする皮膚外用組成物」である点。

【相違点】

本願発明は当該組成物が「シワ形成抑制剤」であるのに対し,

      引用発明は「美白化粧料組成物」である点。

【審決理由】

①引用文献の組成物を皮膚に適用した場合,同じ有効成分を同程度含有する以上,美白と同時にシワ形成抑制作用も奏しているはずのものであって,上記の相違点は,組成物中の有効成分であるアスナロ抽出物の作用を美白作用と認識して美白化粧料組成物としたか,シワ形成抑制作用と認識してシワ形成抑制剤としたかの表現上の相違にすぎない。換言すれば,本願発明は,引用文献のアスナロの抽出物を含有する美白化粧料組成物について,シワ形成抑制の効果を新たに発見したにすぎないものであり,それにより格別新たな用途が生み出されたものではない。

②皮膚の黒化や色素沈着はシワ形成と同様,美容を損なう典型的な現象であり,これらの現象を予防することは日焼けやシワが既にあるとないとにかかわらず,美容効果,即ち皮膚を美しく健康に保つために志向されるものである。そして,引用文献の組成物も本願発明のシワ形成抑制剤もいずれも美容効果を期待する使用者に対して用いられ,同じ効果が奏される以上,新たな用途の外用剤が創出されたとすることはできない

 よって、本願発明は新規性を有しない(特許法第29条第1項)。

(原告主張)

①取消事由1(省略)

②取消事由2

(ア)

a.シワと色素異常の違い

 「シワ」とは,後天的に生じた皮膚のゆがみ,表皮から真皮にかけての皮膚の変形である。 一方、「皮膚の黒化やシミ,ソバカス等の色素異常」は,表皮内における色素(メラニン)の異常増加,沈着によって生じる。 以上のとおり,シワと皮膚の黒化やシミ,ソバカス等の色素異常は全く異なる現象である。

b.シワ形成抑制剤と美白化粧料組成物の作用機序の違い

 上記のシワ形成の原因と機構から,「シワ形成抑制剤」としては,表皮の乾燥防止や真皮を構成する繊維を復元する作用を有するもの,活性酸素を消去しうる抗酸化剤等が用いられている。 一方、皮膚におけるメラニン生成と代謝機構から,「美白用薬剤」としては,メラノサイト内でのメラニン生成抑制,産生されたメラニンの還元,表皮内メラニンの排泄促進,メラノサイトに対する選択的阻害活性を有するものが用いられている。

 以上のとおり,「シワ形成抑制剤」と「美白化粧用組成物」とでは,作用部位や作用機序が全く異なり,その有効成分である薬剤も,化学的構造的に全く異なる化合物等である。

c.販売・購入実態における相違

 「化粧品マーケティング要覧2004 No.1」では,化粧品を機能別に,保湿訴求,ホワイトニング(主に美白効果を訴求),アンチエイジング(主にシワ・タルミなど老化防止を訴求)等に分類してマーケット動向を分析している。

 各化粧品メーカーは,ホワイトニング(美白)とアンチエイジング(抗シワ)を別個の製品としてラインアップし,有効成分の作用機序や機能・効果を強くアピールしている。市場では,ホワイトニング(美白),アンチエイジング(抗シワ),保湿といった,特定の機能・効果を訴求した商品がそれぞれ明確に区別して販売され,需要者はその特定の機能・効果を求めて商品を購入している。商品は所望の機能・効果を奏するための有効成分を含み,その旨の表示(ラベル)を付して販売される。そして,販売者及び需要者はその表示にしたがって目的の商品を選択し,仕入れ,販売し,購入する。

(イ)

 アスナロの抽出物を有効成分とする公知の皮膚外用組成物のシワ形成抑制剤としての使用は,新たに発見された技術的効果に基づくものであり,機能的な技術的特徴である。そして,この技術的特徴は,引用文献に記載されたものではないから,引用文献のアスナロの抽出物を含有する美白化粧料組成物を実施するに際し,潜在的に発生していたとしても,本願発明のアスナロの抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤は新規である

 また,上記(ア)のとおり,シワ形成抑制剤と美白化粧料組成物は,その適用対象,標的及び作用効果を全く異にするものである。上記(ア)のとおり,商品はその効果や機能を示すラベルを付して販売され,消費者はその特定の効果や機能を期待し,シワ形成抑制と美白化粧料組成物を明確に区別して購入している。したがって,アスナロ抽出物のシワ形成抑制効果は,本願出願前には認識されたことがなく,本願発明者によって初めてこのシワ形成効果が見い出された結果,「アスナロ又はその抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤」が生み出されたのである。本願発明がなければ,アスナロ抽出物は,シワ形成抑制剤として使用されることはなかった。この意味で,本願発明は,アスナロの抽出物について,シワ形成抑制の効果を新たに発見し,それにより新たな用途を生み出したものであり,シワ形成抑制剤と美白化粧料組成物を単なる表現上の相違とする審決の上記判断には誤りがある。

(ウ)

 上記(ア)のとおり,皮膚の黒化や色素沈着等とシワ形成は,その発生部位,原因,機構において全く異なる現象であって,美容を損なう現象として同視できるものではない。また,シワ形成抑制剤は,顔面のシワの発生や進行の抑制を期待する人に対して用いられ,美白化粧料組成物は,日焼けによるシミ,ソバカス等の改善・予防を期待する人に対して用いられるから,両者は同じ効果を期待する使用者に対して用いられるものではない。

(被告主張)

①取消事由1(省略)

②取消事由2

(ア) 本願発明の「シワ形成抑制剤」が,化粧料を含む「皮膚外用組成物」の一種であること,いわば「シワ形成抑制作用を有する皮膚外用組成物」であるといえる。仮に,「シワ形成抑制剤」中の「シワ形成抑制」との表現がいわゆる用途の表示であったとしても,本願発明の「シワ形成抑制」は,「シワ形成抑制用の皮膚外用組成物」である。

 本願発明の「シワ形成抑制剤」中のアスナロ抽出物等の有効成分の含有量と,引用発明の「美白化粧料組成物」中の有効成分の含有量とは異なるものではなく,また,両者の取り得る形態も異ならない。

 引用発明の「美白化粧料組成物」を皮膚に適用すれば,「美白作用」と同時に「シワ形成抑制作用」も奏しているはずのものである。そして,「シワ形成抑制作用」のような作用は,視覚や触覚のような五感で容易に知得できる作用であるから,「美白化粧料組成物」を皮膚に適用・使用した場合に,その使用者が容易にその効果を実感できるものである。したがって,そのような効果を単に認識し,それをうたった「皮膚外用組成物」と,公知の「美白化粧料組成物」とは,物として明確に区別することができないし,「皮膚外用組成物」について,格別新たな用途が生み出されたとすることもできない。

(イ)

 例えば,「乳酸」や「アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム」のように,単一の成分であって,美白作用とシワ形成抑制作用とを併せ有しているものが存在している。美白効果を有する成分とシワ形成抑制効果を有する成分とを配合して,美白効果とシワ形成抑制効果とを併せ有する化粧料も販売されている。このことは,少なくとも,供給者が美白作用とシワ形成抑制作用との両方を有する商品を市場に供給すべきと判断したことにほかならず、「需要者や当業者が美白作用を有する組成物について同時にシワ形成抑制作用を有すると期待することは当該分野の常識上ありえない。」との原告の主張は失当である。

(ウ)

 本願明細書には,「発明の効果」として,「本発明のシワ形成抑制剤は,紫外線の照射によるシワ形成の抑制作用に優れ,皮膚老化予防,特にシワ予防用の外用剤として有用である。」との記載があり,本願発明のシワ形成抑制剤は,皮膚の老化の一種である,紫外線により形成されるシワの予防に特に有用なものである。一方,引用文献には,シワについての言及はないものの,「紫外線による皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着を消失し,又は予防するための美白化粧料組成物に関する。」との記載があり,そこに記載の美白化粧料組成物は,紫外線によるトラブルの予防のために使用されるものである。

 引用発明の「美白化粧料組成物」と本願発明の「シワ形成抑制剤」は,いずれも,美容効果のうち,特に紫外線による皮膚のトラブルに対する予防効果を期待して皮膚に適用されるものであって,「同じ効果を期待する使用者に対して用いられるものではない。」とする原告の主張は,失当である。

(裁判所の判断)

①取消事由1(省略)

②取消事由2

 本願発明は,アスナロ又はその抽出物が優れたシワ形成抑制作用を有することを見い出したことによってなされた発明であって,「シワ形成抑制」という用途を限定した発明(用途発明)であると認められる。

 本願発明の「シワ形成抑制」という用途が,その技術分野の出願時の技術常識を考慮し,新たな用途を提供したといえるのでなければ,発明の新規性は否定されるので,以下,本願発明の「シワ形成抑制」という用途が,新たな用途を提供したといえるかどうかという観点から判断する。

(1)

 引用文献には,皮膚に適用することにより,色素細胞を白色化して,紫外線による皮膚の黒化若しくは色素沈着を消失させ又は予防する美白化粧料組成物で,有効成分としてアスナロの枝葉のメタノール抽出エキスを含有するものが記載されていると認められる。

(2)

「シワ」と「皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着」では,

() 「シワ」が,皮膚の張り,弾力性が喪失して皮膚に線状や襞状の溝が形成される現象であるのに対し,「皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着」が,皮膚にメラミン色素が沈着して褐色~黒色に変化する現象であって,現象として異なること,

() 「シワ」と「皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着」は,いずれも紫外線暴露が原因の一つとなって起こるが,その機序は,「シワ」が,正常な弾性繊維とそれによる網状構造が変性し,異常な弾性組織が蓄積することによって起こるのに対し,「皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着」は,メラニン色素の沈着によって起こるものであって,機序が異なること,

() 予防・治療法としては,紫外線の皮膚への吸収を防ぐもののように共通しているものがあるが,それ以外に多くの異なる予防・治療法があること,が認められる。

(3)

 「'96化粧品マーケティング要覧No.1」の記載から、美白効果を主に訴求する化粧料,とシワ,タルミなど老化防止を主に訴求する化粧料とは,異なる種類の製品であると認識されていたことが推認される。

 引用発明の「美白化粧料組成物」を皮膚に適用すれば,「美白作用」と同時に「シワ形成抑制作用」を奏しているとしても,本願の出願までにその旨を記載した文献が認められないことからすると,「シワ形成抑制作用」を奏していることが知られていたと認めることはできない。

 「シワ」は,現象もそれが生ずる機序も,「皮膚の黒化,又はシミ,ソバカス等の色素沈着」とは異なり,美白効果を主に訴求する化粧料,とシワ,タルミなど老化防止を主に訴求する化粧料は,製品としても異なるものと認識されていたところ当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,本願出願当時,引用発明につき,「シワ」についても効果があると認識する余地はなかったものと認められる。

 美白としわ抑制の効果を併せ持っている化粧料はアスナロ抽出物とは全く異なる物質であるから、アスナロ抽出物もしわ抑制効果を併せ持っていると認識できたとは認められない。

 美容効果のうち,特に紫外線による皮膚のトラブルに対する予防効果を期待して皮膚に適用されるものであるとの共通点があるからといって,当業者が,本願出願当時,引用発明につき,「シワ」についても効果があると認識することができたとは認められない。

(4)

 これまで述べたところを総合すると,当業者が,本願出願当時,引用発明の「美白化粧料組成物」につき,「シワ」についても効果があると認識することができたとは認められず,本願発明の「シワ形成抑制」という用途は,引用発明の「美白化粧料組成物」とは異なる新たな用途を提供したということができる。

 したがって,取消事由2は理由がある。

以上。

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April 12, 2007

米国特許規則改正の動き

 米国特許規則の改正最終案が、OMB(Office of Management and Budget)に提出され、90日以内にOMBが検討し、その後、発効されるという未確認情報が、飛び込んできました。

 規則改正最終案の詳細は不明ですが、主要改正点は、以前お知らせした、継続(分割)出願の制限、クレーム数の制限です。さらにIDSに関する規則改正が含まれているらしいですが、詳しくは判りません。7-8月頃に改正された規則の内容が公表されるのではないかと前記未確認情報は言っております。

 ひとまず、速報です。

(弁理士KIKUMA@菊間特許事務所)

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April 09, 2007

米国特許の非自明性(103条)判断基準

米国特許の非自明性(103条)判断基準

 米国特許における最近の話題の一つに非自明性の判断基準の見直